元日本代表主将・菊谷崇氏とキヤノンイーグルスの天野寿紀が目標設定をサポート
ラグビー元日本代表主将の菊谷崇氏と、トップリーグ・キヤノンイーグルスの天野寿紀が、オンラインを通じて宮城・石巻工業のラグビー部3年生11人と再会を果たした。公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」で「夢応援マイスター」を務める2人。これまで定期的に石巻に足を運び、遠隔指導ツール「スマートコーチ」を活用しながら生徒たちの成長をサポートしてきた。
「ヒーローになれるチャンス」 元ラグビー日本代表らが石巻工でオンライン「夢応援」
ラグビー元日本代表主将の菊谷崇氏と、トップリーグ・キヤノンイーグルスの天野寿紀が、オンラインを通じて宮城・石巻工業のラグビー部3年生11人と再会を果たした。公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」で「夢応援マイスター」を務める2人。これまで定期的に石巻に足を運び、遠隔指導ツール「スマートコーチ」を活用しながら生徒たちの成長をサポートしてきた。
本来なら石巻で一緒に楕円球を追いかけたかったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で断念。だが、オンラインを通じた建設的なディスカッションで、新チームとして動き出す生徒たちを勇気づけた。
世界的に大流行している新型コロナウイルスの影響により、石巻工業のラグビー部員たちも3月以降は自主練習を余儀なくされてきた。5月に入り、日本では全国的に緊急事態宣言が解除され、学校もようやくスタート。この日は3年生の部員11人が感染予防のためにマスクをつけて参加し、画面越しではあるが、久しぶりに“再会”したラグビー界の大先輩2人の姿を目にし、うれしそうな表情を浮かべた。
冒頭に菊谷氏は「3年生にとってラストイヤー。コロナで練習ができない難しいスタートとなりましたが、今日はいい時間にして、(引退する)最後まで活動できるきっかけにしてほしい」と挨拶。続いて、「目標に向かって前向きに活動できる時間にしましょう」とメッセージを送る天野が進行役を務める形で、生徒たちとのディッスカッションが始まった。
まず、ディスカッションの目的として掲げられたのが「チームの主体性を向上させること」。高校3年間の集大成として目指す花園出場へ、3年生のモチベーションをアップさせ、さらに下級生にもいい影響を与えられるようなチームとなるにはどうしたらいいか。ディスカッションの最後には、チームとして進むべき方向性を見出すことを目指した。
「現状把握」から「視点を外に」、ディスカッションから始まる目標設定
最初のステップとして、現状を把握するための近況報告から始めた。4月は怠惰な日々を過ごしたという菊谷氏は、5月に入るとオンライン講習やオンラインレッスンを企画。自宅にトレーニング機器も導入し、今では毎日忙しく過ごしているという。トップリーグが中止となった天野は、自宅や公園でトレーニングに励む一方、英語を勉強し、栄養に心掛けた自炊を実践。「今だからできることに取り組んでいる」と話した。
石巻工業で主将を務める石田瑠くんは、チームとして活動できない期間は「朝9時から少人数で集まって、感染対策に気を付けながら、1時間半くらい走ったり筋トレをしていました」と、できる限りの準備を進めていたという。FWの今野甲大くんは「農家で田植えの時期だったので、田植えを手伝っていました。肥料袋を運んだり苗を持ったりしながら、アームカールをしていました」と、家の手伝いを練習に繋げる工夫を披露。独自の発想に、菊谷氏も「いいね」と笑顔を見せた。
次のステップでは、自分に向いていた視点を、日本、そして世界に移し、最近どんなことが起きていたかを語り合った。例として、天野はニュージーランドの取り組みについて紹介。早々に国をロックダウンしたおかげで多くの新型コロナウイルス感染者を出さずに沈静化させ、6月からラグビーの新リーグがスタートするという。「みんなでウイルスに向き合って、スポーツができる環境を取り戻した。あるべき姿」と感心し、自身もステイホームを徹底したという。
生徒からは「東京五輪が1年延期になった」「日本のプロ野球は6月から始まる」という意見が出る中、「確かに高校生といえば甲子園が一番大きなことかもしれないけれど、ニュースでは甲子園の中止ばかり取り上げられていて、インターハイがなくなったことは、そこまで大きく取り上げられなかった。それはかわいそうだと思う」という、高校生ならではの率直な声も飛び出した。
高校スポーツに限らず、様々なスポーツイベントが中止や延期となる中、高校ラグビーの集大成ともいえる「花園」は開催できる見込みが高い。その事実がいかに幸せなことか。菊谷氏は「日本や世界など、自分以外の環境を基準に考えると進むべき方向が見えてくる」と、外に視野を広げる大切さについてアドバイスを送った。
見つかったキーワードは「少人数でのコミュニケーション」
最後のステップとして、ここから先の未来に向かって、チーム・個人で取り組むべきことは何か、「考動」するべきことは何かをディスカッション。天野は「考えて動くために、あえて『考動』としました」と意図を説明。生徒たちはまず1分間、それぞれに考えをまとめ、続いて4組に分かれて2分間のグループトークを行った。
ここで夢応援マイスター2人の興味を引いたのが、副主将を務める武山裕くんの意見だった。チームとして活動自粛期間中に「コミュニケーションを多く取るようになり、その中で絆が深まったと思った」という。チームとしての活動が再開された後も、「コミュニケーションを図ることで、チームの発展に繋げたいです」と話した。
なぜ深いコミュニケーションが取れるようになったのか。その理由として、武山くんは「これまで少人数で話し合うことがあまりなかったから」と分析。チーム全体にコミュニケーションの輪を広げる方法として、石田くんは「1年生はまだ慣れないと思うので、2、3年生が声を出して引っ張れば輪が広がると思う」と、上級生が高い意識を持つ大切さについて触れた。
少人数でのコミュニケーションをキーワードとし、自ら目標を見つけた生徒たち。天野は「自分がコントロールできない環境を乗り越え、目標を達成できた時の気持ちを思い描いて進んでほしい」と話し、「W杯での日本代表の姿」を好例として挙げた。「1人で挫けてしまうことでも、横にいる仲間と助け合い、励まし合いながら達成できることもある。コミュニケーションを取りながら頑張ってください」とエールを送った。
菊谷氏は自身が日本代表としてプレーした2011年W杯は、世界の強豪には太刀打ちできなかったエピソードを披露。「でも、2015年、2019年と8年間積み上げてきたから結果が出た。石巻工業のみんなも積み上げてきたものがある。僕が石巻工業と繋がって4年、成長する姿を見てきました。今年はみんなが日本代表のようにヒーローになれるチャンス。コミュニケーションを手段として、ONE TEAMになって頑張ってください」と背中を押した。
オンラインを通しても伝わった濃厚な時間はあっという間に過ぎ、予定の1時間を超える“再会”となった。経験のないコロナ禍に負けず、緊急事態宣言中に感じたこと、学んだことを、生徒たちが未来にどう繋げていくか。「状況が落ち着いたら、またみんなの顔を見に行きたい」と声を揃える夢応援マイスター2人のアドバイスを胸に、高校生ラガーマンたちは成長の道を歩む。
(THE ANSWER編集部)