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元パラ陸上日本代表が障害者の労働環境にアプローチ 「違い」を「強み」にする策とは

障害や多様性への理解を深め、職場の活性化や可能性の拡大を促進

 芦田さんが突破したい社会問題は「障害者の可能性が環境によって制限されている」こと。パラアスリートを中心に20人ほどの働く障害者にヒアリングしたところ、「成長機会が限られていて、それを相談する心理的安全性が十分にない」という課題が見えたという。同時に、企業側にもヒアリングをすると、「障害者の価値を企業の強みに生かし切れていない」「会社内に適当な仕事があるか」など、解決したい課題が見えた。そこで課題解決の糸口として考案したのが、障害の有無にかかわらず全社員が参加する研修プログラム「パラスポーツ運動会」だ。

 ステップ1(体験)、ステップ2(学ぶ)、ステップ3(つなぐ)に分かれた3段階プログラムで、ステップ1ではブラインドリレー(視覚障害)、無音指示ゲーム(聴覚障害)、シッティングバレー(下肢障害)などの運動会種目を通じて、参加者全員が多様性を体感する。ステップ2ではパラアスリートの講演や参加者とのディスカッションを通して「多様性と挑戦」について考察。ステップ3では職場のチームごとに多様性を生かす方法やDEIを進めるプランを練り、実践する。

 このプログラムのポイントは、障害や多様性に対する理解を深めるだけではなく、企業内のチーム活性化やコミュニケーション研修として活用する点にあるという。同じタイプを集めるのではなく、個々が持つ強みや違いを理解し、チームとして職務に取り組むことで、企業としても個人としてもより大きな可能性の広がりにつなげていく。

 ピッチ大会の審査員・酒井氏は「自分自身が作ったものに対する『これを本気でやりたいんだ』という熱量が伝わりました」と高く評価する。大きな熱量の源は『ピッチ大会=試合』と捉えた芦田さんの取り組み方にあるようだ。

「2月3日21時半に14分間の発表がある。僕は陸上という個人競技で『この日この瞬間にこのパフォーマンスをする』と決めて勝負する世界観でやってきたので、久しぶりの試合だと思ってめちゃめちゃワクワクしました。ピッチ大会で1番になると決めて、2か月間準備を重ね、実際に1番になることができた。現役の時は世界一にはなれなかったけど、今回なりたい自分を引き寄せることができた成功体験は大きな意味を持ちました」

 一度は失ったワクワク感を取り戻した芦田さんが今後、どのように「パラスポーツ運動会」を具現化し、社会課題を突破するのか、楽しみだ。

(佐藤 直子 / Naoko Sato)

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