「旨い塩の違い? 簡単よ、塩で朝まで酒が飲めるか」 お金よりオモロイことに生きる久保竜彦、47歳の今
お金に持つ独特の距離感「別に金があって(それだけで)オモロイことはないやろ」
ひとつはお金。日本で人気を誇る競技、サッカー。活躍の場は少なくない。
引退後の選手は指導者として次世代を育成したり、解説者としてサッカーの魅力を伝えたり。あるいはサッカーを離れて起業する、あるいはタレントしてスポットライトを浴びる者もいる。現役時代にともにプレーした中田英寿、中村俊輔、福西崇史、中澤佑二らはそれぞれに個性的なキャリアを歩む。
久保はお金に対して距離感を持つ。
「必要やったらね、金ぐらい(最低限は)どうにかできると思うんよ。金は必要な時もあるけど。別に金があって(それだけで)オモロイことはないやろ。オモロイこといっぱいあるしね、外に。それでちょっとね、金もらえりゃいいだけで。それより、おもしれえこと知ってるから、俺はやってるだけで」
「ちっちゃい頃からそうなんよ」と続ける。髭を蓄えた口元が少しだけ緩む。
「自分で作って、自分で行って、自分でやるっていうのが楽しい。車でブーンって山に行くよりね。自力でね、チャリ使ったりして行った方が、むっちゃ気持ち良くなるんよね、頭も。そういうことが忘れられんし、やりたい。自分で作ったり、家作るのも基地作るのも好き。だから、やってるだけかな」
もちろん「必要ならどうにかできる」は、元日本代表という肩書きと人脈があってこそ。ただ、必要以上を求めないミニマムな暮らしを選んでいるのも事実。
現役時代はアメ車を乗り回した。年俸は数千万円。「最初(プロになった当初)は飲み代で消えてなくなって。でも、結婚してから嫁さんもどっちも貧乏だったけえ、嫁さんが管理して」。酒を飲めば、財布も携帯もよく失くした。クレジットカードすらも。
「だから、基本は何も持たないようにしたんよ」と久保は大真面目に言う。「横浜の高い店も行ったけど、それより旨いのはあるしね。金じゃ買えん旨いもんちゅうのはやっぱ、あって。まあ、(高級店も)旨いのは旨いけどね」
指針にするのは、己の価値観。自分と他人を比較しない。だから、現役時代の戦友を懐かしんでも羨むことはない。「頑張ってるかなって思うけどね。一緒にやったやつらは、やっぱね。会いてえなとか、酒飲みてえなとか思うけど。でも、それぐらいよ」
古き良き昭和を具現化したような豪傑さを貫き、オンリーワンを歩んできた人生。
転じて、令和のご時世。情報が氾濫し、すべてが可視化されるあまり、自分と他人を比較し、幸せがぶれる人もいる。時代の変化をこの男はどう捉えているのか。
意外にも、久保は「それはええじゃろ」と言った。
ぶっきらぼうな口調に、少しずつ、熱気が帯び始めた。
(後編へ続く)
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)