エースの移籍に思う子供の「進路選択」 選手を成長させる“最適な環境”とは
選手がイメージするサッカーの理想像と、成長するための現実に生まれるギャップ
そしてちょうど僕が、国際コーチ会議でチームを留守にしている時に行われたテストマッチで、二つ下のリーグに所属するクラブに完敗した試合が、彼にとって大きなきっかけとなったようだ。
ユリアンのお母さんとも話をした。突然の移籍になってしまったことを申し訳ないと謝罪された後に、こんな風に話をされた。
「ユリアンは昔からとても奥手で、なかなか自分というものを出せないでいました。サッカーの才能はいろんな監督に褒められていても、その才能を思う存分に発揮することができなかったんです。そんなユリアンが『ママ、もっと上のレベルのクラブでやってみたい』と言い出したんです。私はとてもびっくりしましたし、でも彼が自分で決意してチャレンジしようとしたことを、本当に嬉しく思っています」
昨季は同じようにSCフライブルクU-12でプレー歴のある選手が、他の強豪クラブへ移籍していった。いわゆる普通の町クラブ・少年団だと、チーム内で選手間の実力差が生まれることは普通にある。そんな時、才能豊かな選手には「彼らの成長のためにも」と、例えばキャプテンマークを託してより大きな責任を与えたりする。チーム全体に影響を与える立場に立ってもらうことで、選手、そして人間として成熟できる場を作ろうとはしたし、他にもいろいろと考えてはいた。
でも彼らには、自分でイメージしている確かなサッカーがある。そこに妥協したくはないという強い思いがある。そうした向上心を、僕らが摘み取るわけにはいかない。