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エースの移籍に思う子供の「進路選択」 選手を成長させる“最適な環境”とは

選手がイメージするサッカーの理想像と、成長するための現実に生まれるギャップ

 そしてちょうど僕が、国際コーチ会議でチームを留守にしている時に行われたテストマッチで、二つ下のリーグに所属するクラブに完敗した試合が、彼にとって大きなきっかけとなったようだ。

 ユリアンのお母さんとも話をした。突然の移籍になってしまったことを申し訳ないと謝罪された後に、こんな風に話をされた。

「ユリアンは昔からとても奥手で、なかなか自分というものを出せないでいました。サッカーの才能はいろんな監督に褒められていても、その才能を思う存分に発揮することができなかったんです。そんなユリアンが『ママ、もっと上のレベルのクラブでやってみたい』と言い出したんです。私はとてもびっくりしましたし、でも彼が自分で決意してチャレンジしようとしたことを、本当に嬉しく思っています」

 昨季は同じようにSCフライブルクU-12でプレー歴のある選手が、他の強豪クラブへ移籍していった。いわゆる普通の町クラブ・少年団だと、チーム内で選手間の実力差が生まれることは普通にある。そんな時、才能豊かな選手には「彼らの成長のためにも」と、例えばキャプテンマークを託してより大きな責任を与えたりする。チーム全体に影響を与える立場に立ってもらうことで、選手、そして人間として成熟できる場を作ろうとはしたし、他にもいろいろと考えてはいた。

 でも彼らには、自分でイメージしている確かなサッカーがある。そこに妥協したくはないという強い思いがある。そうした向上心を、僕らが摘み取るわけにはいかない。

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中野 吉之伴

1977年生まれ。ドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。ドイツでの指導歴は20年以上。SCフライブルクU-15チームで研鑽を積み、現在は元ブンデスリーガクラブであるフライブルガーFCのU12監督と地元町クラブのSVホッホドルフU19監督を兼任する。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に『サッカー年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)、『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)がある。WEBマガジン「フッスバルラボ」主筆・運営。

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