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怪物フェルプスに0秒04差に迫った大学生の今 右肩がへこみ、怪我との闘い…アパレルの世界に描く夢――競泳・坂井聖人

引退後に地元・福岡に戻った坂井。今後は水泳のパーソナルコーチとして自身の経験を伝えていく予定だ【写真:本人提供】
引退後に地元・福岡に戻った坂井。今後は水泳のパーソナルコーチとして自身の経験を伝えていく予定だ【写真:本人提供】

第二の人生で思い描く2つの挑戦

 最終的に引退を決断したのは、発表する直前のことだったという。

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 でも今は気持ちを切り替え、新たな人生を歩み始めようとしている。

「自分のなかではもう、(リオ五輪銀メダルは)過去のことです。でもこういう取材を受けると、やっぱり思い出しますね」

 競技者としてのプレッシャーから解放された、穏やかな表情で8年前のことを振り返る。もっとも肩の痛みに苦しんでいた当時の取材でも、坂井が発する言葉こそ深刻な内容ばかりだったが、なぜか悲壮感を感じさせることはなかった。それもまた、坂井の不思議な魅力でもあった。

「(自分の状態を説明しても)自分がつらいことを周りの人に感じられたくないんです。きついこと、辛いことは自分のなかで解決するものと思っていたからかもしれませんね」

 坂井は現在、故郷・福岡に戻り、今後は水泳のパーソナルレッスンを事業展開していくことを模索している。そして、その先にはもう一つ、アパレルブランドを展開する夢も抱いている。

「兄の影響もあって、小さい頃からずっと洋服に興味を持っていました。好きだったので、いつの日か水泳をやめてから挑戦したいと思っていました。

 今は、まずはパーソナルコーチとしての活動、ゆくゆくは水泳関連のアパレルブランドを展開したいと思います。そのあたりが今はまだバランスを図りながら、どうやっていこうか考えているところです」

 紆余曲折の競技人生の間もずっと「好きだった」水泳と、プライベートで熱を入れていたアパレル。坂井はこれからも自分らしく、第二の人生を歩んでいこうとしている。

■坂井 聖人 / Masato Sakai

 1995年6月6日生まれ、福岡県出身。地元の柳川スイミングクラブで幼少期から泳ぎ、小学6年生からバタフライを主戦場とした。中学時代から全国の舞台で頭角を現すと、インターハイでは高校1年で男子100メートルバタフライ、高校3年で男子200メートルバタフライを制した。卒業後は早稲田大に進学すると、21歳で迎えた2016年リオデジャネイロ五輪に出場。男子200メートルバタフライ決勝で驚異的な追い上げを見せ、怪物マイケル・フェルプスに0秒04差に迫る銀メダルを獲得した。その後は肩の怪我にも悩まされ、東京五輪、パリ五輪の代表に入れず。今年5月に現役引退を発表した。

(牧野 豊 / Yutaka Makino)


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牧野 豊

1970年、東京・神田生まれ。上智大卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。複数の専門誌に携わった後、「NBA新世紀」「スイミング・マガジン」「陸上競技マガジン」等5誌の編集長を歴任。NFLスーパーボウル、NBAファイナル、アジア大会、各競技の世界選手権のほか、2012年ロンドン、21年東京と夏季五輪2大会を現地取材。22年9月に退社し、現在はフリーランスのスポーツ専門編集者&ライターとして活動中。

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