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怪物フェルプスに0秒04差に迫った大学生の今 右肩がへこみ、怪我との闘い…アパレルの世界に描く夢――競泳・坂井聖人

スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

マイケル・フェルプス(中央)に0秒04差に迫り、リオ五輪銀メダルを獲得した坂井聖人(左)【写真:Getty Images】
マイケル・フェルプス(中央)に0秒04差に迫り、リオ五輪銀メダルを獲得した坂井聖人(左)【写真:Getty Images】

「シン・オリンピックのミカタ」#55 連載「あのオリンピック選手は今」第1回

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

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 五輪はこれまで数々の名場面を生んできた。日本人の記憶に今も深く刻まれるメダル獲得の瞬間や名言の主人公となったアスリートたちは、その後どのようなキャリアを歩んできたのか。連載「あのオリンピック選手は今」第1回は、2016年リオデジャネイロ五輪の競泳男子200メートルバタフライで銀メダルを獲得した坂井聖人だ。21歳で初めて出場した五輪の大舞台で、金メダルにわずか0秒04に迫る泳ぎを見せてインパクトを残したが、その後は怪我に悩まされたことでキャリアは暗転する。栄光と挫折を知るスイマーが、今年5月に現役引退を決断するまでの日々を追った。(取材・文=牧野 豊)

 ◇ ◇ ◇

 スイマーにとって、0.04秒とはどれほどのものなのだろう。坂井聖人に問うと、「指先くらいの差」と言う。世界最高峰のオリンピックという大舞台、しかもその頂点を決めるレースにおいて金色と銀色を分け隔てた記録は、当事者にとってどのような意味を持つのだろうか。

 8年前の2016年夏、当時早稲田大学3年生の坂井は、南米初のオリンピック開催となったブラジル・リオデジャネイロ五輪で「怪物」に真っ向勝負を挑んだ。「怪物」とは、過去3大会で表彰台の最も高いところに上ってきたマイケル・フェルプス(米国)。現役生活を通して、通算23個の五輪金メダルを獲得した比類なきスイマーだ。

 日本勢にとって、男子200メートルバタフライは2004年アテネ大会で山本貴司が銀メダル、08年北京、12年ロンドンと松田丈志が2大会連続の銅メダルを獲得しており、「お家芸」と呼べる種目ではあったが、その前に立ちはだかってきたのがフェルプスだった。

 それでも坂井は、自信に満ち溢れていた。

「リオ五輪に向けたメキシコでの高地合宿で、これは(本番でも)絶対にいけるなというくらい質のいい練習が積めていて、絶好調でした。まさに、ハマっちゃっていたんです。200メートルバタフライは(他種目も含め)世界王者を含めたライバルが出場していましたが、自分のなかでの一番の目標はやっぱりフェルプス選手でした。それまでは単に憧れの存在でしたが、今回は倒すべき相手として、戦うこと、勝つことをイメージして練習に臨んでいました」

 決勝は7レーン。レース序盤は思ったよりもペースを上げられなかったが、坂井は6番手で150メートルをターン。そこからラスト50メートルで見事な追い上げを見せる。

 大きなストロークで順位を一つずつ上げ、残り15メートル近辺で2番手に上がると、中央4レーンのフェルプスが視界の左側に入ってきた。「これはワンチャン(ス)、あるんじゃない?」と思い、さらにギアを入れ、最後の力を振り絞る。しかし「ラスト5メートルでバテちゃって……」、フィニッシュのタッチのタイミングが微妙に合わなかった。記録は1分53秒40、フェルプスにわずか0秒04差及ばなかった。

「銀メダルを取れたとはいえ、悔しさはありました。でも、そのわりには、レース直後は思いきりガッツポーズしてました(笑)。初めてのオリンピックだったので、メダルを取れた嬉しさのほうが大きかったんでしょうね」

 表彰台ではフェルプスと並び、星条旗の横に掲げられた日の丸を見つめていた。アメリカ国歌が流れるなか、「やっぱりここは、君が代だよな」と強く感じたという。

 これからもっと頑張って、4年後の東京五輪こそ――。

 しかしその後、坂井は厳しいキャリアを歩むことになる。

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牧野 豊

1970年、東京・神田生まれ。上智大卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。複数の専門誌に携わった後、「NBA新世紀」「スイミング・マガジン」「陸上競技マガジン」等5誌の編集長を歴任。NFLスーパーボウル、NBAファイナル、アジア大会、各競技の世界選手権のほか、2012年ロンドン、21年東京と夏季五輪2大会を現地取材。22年9月に退社し、現在はフリーランスのスポーツ専門編集者&ライターとして活動中。

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