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スポーツでよく聞くフィジカルトレーナーはどんな仕事? 第一線で活躍する2人が知る魅力とやりがい

対談した泉さん(左)と中野さん【写真:中戸川知世】
対談した泉さん(左)と中野さん【写真:中戸川知世】

ナショナルチームを担当する場合のやりとりは?

――泉さんは競技スポーツでは主にナショナルチームをみています。元々、外部のトレーナーがみている選手が加入した場合、そのトレーナーともやり取りをするのでしょうか?

泉 「はい、出来るだけ選手の要望に添うようヒアリングをしながら、個人で契約しているトレーナーや各方面の専門家と協力しながら強化を進めます。逆に、私から、選手にマッチングする新たな外部のトレーナーに、選手のトレーニングをお願いする場合もあります。例えば私は中野さんと東京2020の準備期間に初めてお会いしましたが、色々とお話するなかで、運動環境の確保や新たなアイデアなど個別戦略のプラン立てをご相談させていただくことにしました。我々にとっても貴重な時間になりましたね」

中野「思うのですが、ここ数年で、『色んな方法を試してみたい』と、外部のトレーナーをつける代表選手が増えましたよね。代表クラスになると、皆、個人でトレーナーをつけていると思われますが、以前は個人契約をするのは、ほんの一部のプロ選手ぐらいでしたから」

泉「そうですね。やはり、競技者としては限られた時間を有効に使い、さらに強くなりたい、と考えます。それには、計画的にフィジカルを向上させたり選手自身も様々なスポーツ科学の情報を得てより効果的にチャレンジしたりすることが必要だと気づいたのだと思います。一方で、プロ選手や日本代表選手でも試合や遠征に強化、ケア、メディカルとすべてのトレーナーを帯同出来る選手はほんの一握り、というのが実情」

中野「これは難しい問題。泉さんのおっしゃるとおり、例え五輪や世界選手権のような大きな大会でも、一人のトレーナーが複数の役割を兼任しているのが現実です。私たちフィジカルトレーナーも、ケアの知識はあるし、選手に求められればマッサージを行う人も行います。でも、毎日、何十人もの人のマッサージ行っている鍼灸師や柔道整復師のほうが、当然、経験値も技術も高い。逆にメディカル系のトレーナーもトレーニングをみることが出来ますが、内容の質はフィジカルトレーナーのほうが高くなる」

――それは大事な遠征や大会ほど、頭を悩ませますね……。

泉「ですから、強化に強い人、ケアに強い人のどちらを入れるかは、その時々の需要や戦略によって決めていくしかありません。それだけに、トレーナーを含めた医科学チームは、最終的に誰が帯同しても問題ないよう、常に連携することが大切です。同時に選手自身も、セルフマネージメントの力(自分で身体をコントロールする力)が早い段階で必要になってくるといえます」

――パリオリンピック・パラリンピックも開幕。お二人が担当、あるいは関連する競技や選手たちも本大会に出場します。トレーナーとして今回の大会では、どんなことに注目していますか?

中野「私は2012年ロンドン大会、2016年リオ大会で現地に入りましたが、この3大会で段階的に大きく変わってきているのが、AIによる分析能力の向上です。私たちフィジカルトレーナーも分析士からデータをもらいトレーニングに反映していますが、この傾向は日本だけではなく世界的にあります。また、今や科学的なトレーニングを行うことは当たり前ですが、さらにそれらの練習やトレーニングが正確に反映されているかを、アセスメント出来るようにもなってきている。各国がどのような機材と規模で分析チームを編成してくるのかが楽しみです」

泉「ここ10年間、チームJAPANは医・科学スタッフを含め、セルフコンディショニングに力を入れ取り組んできましたが、パリ大会はその成果をみる一つになります。というのも、チームJAPANとしてコロナ禍を境に、睡眠や免疫、食欲などの管理アプリなどを使ってのコンディション管理や教育がより発展し、以前よりも緻密に取り組んできた感があります。日々、セルフコンディショニングを積み重ねてきた結果、時差を含めた体調管理、ピーキング等、どのような成果が得られるのか。ロス2028大会や次の世代に向ける意味でも大切な情報になります」

――お二人とも過去、アーバンスポーツにも関わってきました。今大会唯一となる新競技「ブレイキン」について一言お願い致します。

泉「とても楽しみですね。例えばスポーツクライミング、スケートボードが参入したとき、各国の選手やコーチとフランクにコミュニケーションをとり楽しむ姿は、これまでのオリンピック競技と異なり、本来あるべきスポーツの楽しむ形を確認する機会となりました。新しい競技の参入は他競技にとっても学びになり、スポーツの価値を上げることにもつながります。そして、ブレイキンをきっかけにオリンピックを観てくれた方々が、他のスポーツにも興味を持って観てくれることを期待しています」

■中野ジェームズ修一 

 フィジカルトレーナー、(株)スポーツモチベーション 会員制パーソナルスポーツクラブ『CLUB100』最高技術責任者、PTI 認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー、米国スポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP-C)。フィジカルを強化することで競技力向上や怪我予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現 する「フィジカルトレーナー」の第一人者。オリンピアンを始め、多くのアスリートから絶大な支持を得る。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くからモチベーションの大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍。『世界一 伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』(徳間書店)、『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経 BP)などベストセラー多数。

■泉 建史

 フィジカルトレーナー/フィジカルコーチ、日本オリンピック委員会(JOC)医科学強化スタッフ、ナショナルチーム・フィジカルコーディネーター、米国スポーツ医学会認定 運動生理学士(ACSM/EP-C)。2019年年、NSCAジャパン最優秀指導者賞受賞。ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設の医・科学サポートプロジェクト委員、近年は東京2020、パリ2024、ロサンゼルス2028世代を強化。採点系競技、審美系競技をはじめ複数のスポーツ強化を歴任、プロスポーツではWILLING所属JRA日本中央競馬会・競馬学校・トレーニングセンター騎手実践課程フィジカル育成を担当。東大阪市ではスポーツ教育アドバイザーとして活動、国際的な組織のNSCAジャパンのエリアディレクターとして後進の教育に力を注ぐ。『1252女性アスリートコンディショニングエキスパート検定』(東洋館出版社)運動処方パート執筆、『W-ANS ACADEMY』情報支援、SDGs活動など多数。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

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長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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