真の世界トップを狙う日本No.1ランナー がむしゃらな田中希実のプロ転向決断の裏側
陸上女子中長距離の田中希実が3日、都内の会見で「New Balance」に新たに所属し、プロ転向することを発表した。3月限りで豊田自動織機を退社。1000メートル、1500メートル、3000メートルなどで日本記録を持つ23歳は、新しい環境で世界に挑戦する。会見ではプロとは何なのか、葛藤を抱えた昨年度の心の揺れを告白。ケニア、ボストンの練習でハングリー精神を取り戻した過程を明かした。これからはプロランナーとして“真の世界トップ”を目指していく。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
「ニューバランス 田中希実選手記者会見」
陸上女子中長距離の田中希実が3日、都内の会見で「New Balance」に新たに所属し、プロ転向することを発表した。3月限りで豊田自動織機を退社。1000メートル、1500メートル、3000メートルなどで日本記録を持つ23歳は、新しい環境で世界に挑戦する。会見ではプロとは何なのか、葛藤を抱えた昨年度の心の揺れを告白。ケニア、ボストンの練習でハングリー精神を取り戻した過程を明かした。これからはプロランナーとして“真の世界トップ”を目指していく。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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プロとは何なのか。ただの肩書き、心構えだけではない。田中はイメージを言葉にした。
「いつでも速くて、カッコよく走るのがプロという見方もあると思います。でも、最後まで走りきれなかったとしても、自分がありたいと思うものにコミットして、がむしゃらに目標に向かう気持ちがあれば、カッコ悪くてもそれがプロだなと私は思う。単に精神論として、がむしゃらさを見せるだけでもいけない。カッコいいと思わせること、結果も必要。両方の側面があるのがプロだと思う」
速くてカッコいい、がむしゃらで結果も出す。「そのバランスが私の中で崩れてきていた」。上に行き、名前が売れ、サポートが増えるのに比例して期待も大きくなる。「応えないと」。想いが強くなり、いつしか「カッコよく走ろうとすることが多くなってきていた」と気が付いた。
いつも悩みは尽きない。特に昨年は葛藤の連続だった。
4月、豊田自動織機で社会人生活をスタート。400メートルから1万メートルまで異例の間隔で多数のレースに出場し、「ワクワク」を持つために新しい挑戦を取り入れた。「ありがたい」と感謝を繰り返してきたサポートの存在。決してこれらを軽視したことはないが、「環境を用意されているのが当たり前になりかけていた」と、知らず知らずのうちに慣れていった。
7月のオレゴン世界陸上は800メートル、1500メートル、5000メートルに出場。日本人初の個人3種目に挑戦した。結果は800メートル予選6組7着、1500メートルは準決勝2組6着、5000メートルは決勝12位。挑戦を後押ししてくれる人、環境に応えられない。
「積み重なってきた自分自身へのフラストレーションが爆発した」
周囲から「3種目に挑戦する姿勢だけでも凄いよ」と励まされても、納得できない。「自分の中で挑戦できていると思えなかった」。とにかく自分に厳しい。
「挑戦したいと思っていた気持ちさえも萎えてしまうくらい、しんどい想いの方が大きくなっていて、自分のしたいことが段々わからなくなっていた。挑戦したいのか、したくないのか。自分でもわからない。でも、結果が出ないとモヤモヤする。結果を求めて挑戦したわけでもないし、でも、心の中で結果を求めていたから挑戦するだけでは満足しないんだろうし。
本当の意味でチャレンジってなんだろう。それがわからないままチャレンジを人に見せているだけ。パフォーマンスになってしまっていた。近頃は与えられた環境だったり、そこへの自分自身への甘えが目立ってしまうようなレースが増えてきた。今までのがむしゃらさやハングリー精神が失われているような気がする」