「絶滅危惧種」になったファンタジスタ 漫画で育まれた松井大輔という異端の才能
「絶滅危惧種」になったファンタジスタ「でも喜びや感動って、そこが起点」
38歳になったことをすっかり忘れ、まるで幼少期に戻ったように目をキラキラと輝かせながら続ける。
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「漫画に登場する技って、普通はできないようなものばかりじゃないですか。でも、それをやりたいんです。実際にできたらスゴイじゃないですか。だからグラウンドや公園で練習しました。当時の漫画だと『キャプテン翼』に始まり『VIVA!CALCIO』や『イレブン』などなど。例えば、キャプテン翼だと、バーに当ててはね返ってきたボールをオーバーヘッドキックで決める、とか。練習を重ねれば絶対にできるようになると信じていました。小学校の時は全然できなかったけど、高校生くらいになってできるようになりました」
イメージの源泉は「漫画」にあり、実際の行動に移すことで技を磨く。その繰り返しが松井大輔を形作っていった。
少年は青年となり、やがてプロになった。そしてベテランと呼ばれる域に入っても、根本は何も変わらない。
今年7月27日のジェフユナイテッド千葉戦では、まるで漫画のようなオーバーヘッドキックでゴールネットを揺らした。若き日の松井が、そこにいた。
「今はボランチをやっていることもあって、魅せるプレーはなかなかできません。でもね、やりたいとは思うわけです。だから状況次第では、どんどんやっていきたい。昔は『今日はこの技で相手を抜く』と決めて試合に臨んだりしたけど、それはもうできません(苦笑)。相手のペナルティエリアの中とか、ある程度エゴイストになってもいい場面や場所であれば自分のアイディアを発揮したい。それがなければ“違い”を生み出すのは難しい」
いきいきとした表情で語る松井は、ファンタジスタである誇りを失っていない。
しかし、攻守の切り替えやインテンシティばかりが強調される現代サッカーでは、ファンタジスタが育ちにくいのは間違いないだろう。
「そもそもファンタジスタという言葉もなかなか使われない時代だし、もう『絶滅危惧種』ですよね。でもサッカーを始めた時の喜びや感動って、そういったところが起点だと思うんです。
最近、指導者ライセンスのB級を受講して、子どもを指導する時間があったんです。そんな時は、周りとちょっと違う技やアイディアを披露する選手には無意識に注目してしまいます。『この子、面白いな』って。そのまま無邪気に育っていってほしい、自分みたいに」
ちょっぴり悪戯な笑みは、未来のファンタジスタに向けたエールだった。
○松井大輔、新著「サッカー・J2論」発売
松井の新著「サッカー・J2論」(ワニブックス刊)が10日から発売された。試合間隔の短さと移動距離の長さから「世界一過酷なリーグ」とも言われるJ2。「プロなのに練習グラウンドがない」「ユニフォーム交換は自腹」など、環境面で発展途上なところも多い。「ミドルシュート は打たせてもいい!?」など、戦術もJ1と違ってくる。こんなJ2の知られざる裏側、選手の頑張りを、13年ぶりにJ1昇格を決めた横浜FCの元日本代表・松井が初めて語り尽くした。
(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)