球数制限は必要? 野球界議論に当事者だったアマ選手は何を願う 今、本音で語ろう
内田「自分なら投げたい、だからルールを」、谷田「みんな、美談を欲している」
谷田「監督がその部ごとに決めるのではダメなの?」
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内田「そういう部の方針があっても、絶対に勝たなきゃいけない状況に追い込まれたら『自分、投げたいです』と言ってしまうし、監督も人間だから折れてしまう可能性もある。だからルールで縛らないと難しいと思う。やっぱり3年間やってきて、エースだったら他のメンバーに任せるより、自分が投げることが一番いいと思ってしまうもの」
――その背景には野球文化独特の美談が作られているという側面もある。
内田「『予選から1人で投げ抜いてきたエースが……』みたいなフレーズはよく聞く」
谷田「みんな、それを欲しちゃっているしね」
内田「子供はそれをかっこいいと思ってしまう。だから心を鬼にしてルールを決める必要がある。全員がプロ野球選手になるために高校野球をやっているわけじゃない。そうであれば球数制限を設けた方がいいけど、甲子園優勝をゴールにしている人もたくさんいるし、その方が多いかもしれないことが難しい。だから、定めるならルールにするしかない。そこは偉い人に頑張ってもらうしかないけど、偉い人が動き出すために、自分らみたいな小さいところから言っていくことが大事だよね」
谷田「投げたいと思うから制限した方がいいってこと? 個人的にはルールで縛ることに少し抵抗を感じるかも。ルールで縛ることは選手の思考停止につながったり、指導者の成長を妨げてしまったりしないかな」
内田「自分はプロに行くのが前提だったので、絶対投げたいと思う。だからルールで制限しないと壊れてしまう子も多いと思う。自分が大学時代に怪我をしたことも、少なからず小さい頃から蓄積されたことも要因だと思う。怪我が直結してしまう問題。米国は実際に高校から当たり前に球数制限をずっとやってきて成り立っているし、日本も何年かやれば成り立つと思う。5年、10年やったらその中でどうやって甲子園で勝つか、高校野球も変わってくるはず。先発、中継ぎの役割ができたり、また違う野球になる」
谷田「野球が一つレベルアップして、今まで日が当たらなかった選手に日が当たるかもしれない。今までのルールだったらエース1人で投げ切っていたのが、球数制限があるから2枚目3枚目が育ってくる可能性もあるね」
内田「制限がある中で燃え尽きる方法を見つけると思う。ルールの中で高校野球でどうやり遂げるか。でも、そうなると人を集められる私立の強豪校有利になってしまう。層が厚いチームに勝つようになるのは仕方ないけど、そこだけは難しい」
――2人は高校球界の名将といわれる監督の下でプレーした。谷田は「エンジョイベースボール」を掲げる上田誠監督(当時)の下で学んだ。坊主にすることが強制ではなく、作戦を選手に考えさせることもあった。
谷田「現監督の森林さんも、上田さんも、当たり前のことをやっているだけ。特徴があるといわれることがおかしいと思っていた。勝ちたいと目標があって坊主にしようという発想にならない。監督は選手に考えさせ、意見をもらうことで勝てる確率が高いと思ってやっている。それが正しいからとかじゃなく、考えた結果、それがいいという判断。そんなに極端な例になること自体が高校野球は偏っていると感じる。普通のことやっているだけなのに、という感覚。
慶応には『半学半教』という精神があり、教える側も教わっているという考えが根底にある。選手も何か意見があるなら言ってこいという雰囲気だったからか、今も会社であっても上司に意見しやすい。社会全体がパワハラはダメとなってきているけど、それって本来、当たり前のことのはず。野球部だからパワハラしていいわけじゃない。殴っていいわけでも、押さえつけていいわけでもない。当たり前のことを当たり前にやっていたんだろうなと感じている」