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部活への批判「学校は勉強する場所だ」 むしろ米国は…高校スポーツの存在感が学校で大きいワケ

アメリカで100年前からデザインされ、正当化されてきた歴史とは

 この『カーディナル・プリンシプルズ』を参照しながら、アメリカの運動部を見てみた。

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 アメリカの運動部の特徴である「トライアウト」は、一見すると冷酷な選抜システムに見えるが、「生徒は一人一人能力も進路も異なるのだから、能力に応じた場所(カリキュラム)を提供すべきだ」という「専門化」の理念と重なる。同時に、報告書は「健康」を第一義としているため、特定の生徒だけがスポーツをすればよいとは考えていない。アメリカの高校ではバーシティー(一軍)、ジュニア・バーシティー(二軍)、フレッシュマン(新入生)チーム、さらには校内だけで活動するイントラミューラル(校内対抗戦)など、能力に応じて複数の層を作っている。

 能力に差はあっても誰もがチームの重要な一員とするのではなく、能力に差があることを前提に、能力をテストし、トライアウトに落ちた人は校内運動部に入ればいいじゃないかことになっていたようだ。こういう考え方がベンチ入りもできない補欠を作らないことにつながっているのかもしれない。

 もう一つの柱である「統合化」についてはどうだろうか。報告書は「アメリカでは人種的背景が多様化し、社会階層も異なるため、学校こそが民主主義の精神で国民を統合する唯一の機関である」とし、その具体的な手段として運動競技や学校行事を挙げている。チームメイトと協力してプレーすること自体が統合の経験になるだけでなく、冒頭で触れたホームカミングのように、学校全体が一つになって応援するスポーツ行事もバラバラな背景を持つ人々を一つにまとめる「統合化」の装置ではないかと思えば、こういった行事の盛り上がりにも納得できるような気がする。

 この報告書が出された1918年からの約10年間は、アメリカで学校運動部の制度が整えられていく時期とも重なる。アメリカの高校スポーツがなぜこれほど巨大で、学校生活の中心にあるのか。100年前から「民主的な市民を育てるための教育装置」として正当化されてきた歴史があるからだと言えるだろう。現在のアメリカの運動部の存在感も、この報告書の影響力が残っているように思える。

(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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