「卓球は根暗」のイメージも今は昔 クラブ彷彿の大音響、記者を没入させたWTT大会の異質ムード

記者を「没入感」に浸らせるほどのワクワク感
やはり、驚くのがこれが卓球の試合だということ。近年は変わってきたとはいえ、どうしても地味なイメージはある。タモリがテレビ番組で卓球を「根暗」と言ったのは今から40年近く前。本人はその後、謝罪して日本卓球協会に寄付もしたというが、当時は多くの人が同じような感想を持っていたはず。関係者には申し訳ないが、自分もそうだった。
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1950~70年代にかけて世界トップの実力を誇った日本だが、その後中国や欧州勢に押されて競技力は低迷。五輪競技になっていなかったから(五輪初実施は88年ソウル大会)注目度も低く、メディアに取り上げられることもほとんどなかったと記憶する。
実は「やるスポーツ」としては、決してマイナーではなかった。温泉旅館には台があり、家族旅行や社員旅行で卓球大会は定番だった。大学の学生ラウンジや町の公民館などにも台があり、自由に遊べた。実は今よりも身近だったかもしれない。ただ、あくまでも「レクリエーション」としての「ピンポン」。決して「見るスポーツ」ではなかった。
五輪採用後も世界での苦戦は続いたが、卓球協会の努力もあって少しずつ「根暗」イメージは払しょくされた。福原愛をきっかけに、選手のテレビ露出も急増。2012年ロンドン大会から五輪で連続メダルを獲得するなど、最近は実力を備えた人気競技として定着した感がある。
とはいえ、やはり「卓球」は「卓球」。畳2畳半分の大きさの台に、ゴルフボールより小さい直径40ミリのボール。選手の動きは大きくないし、ボールの回転などは見ていても分かりにくい。もちろん、スピード感や高い技術、戦術、駆け引きなど、楽しめる要素は多いのだろうが、単純に競技の「見栄え」だけを考えると、否定的にならざるをえない。

そんな古い記者の浅い考えが、今大会で壊された。試合が始まるまでのワクワク感、サーブの姿勢に入るとスタンドが静まり返り、ラリーが終わると歓声が爆発するのはテニスと同じ。暗い会場の中央に浮かび上がる卓球台、両手でスタンドを煽る選手の姿……。気が付けば、スポーツを取材していてあまり感じたこともない「没入感」にひたっていた。
大会中、WTTのスティーブ・デイントンCEOは取材に応じ「今年はWTTにとって重要な年になる」と話した。21年にスタートしたシリーズだが、新型コロナ禍もあって軌道に乗せるのが難しく、「グランドスマッシュ」から「コンテンダー」まで予定していた22大会すべてが行われるのは今シーズンが初。だからこそ「さらに収益をあげ、選手の賞金を増やし、事業として成長させてWTTを大きなものにしていきたい」と野望を口にした。
横浜大会が「最高のエンタメ」に思えたのは統括するCEOも同じ。「素晴らしい雰囲気で、いい大会になった。とても満足している」。来年も8月に「チャンピオンズ」を横浜BUNTAIで行うことが決まっているが「将来的には横浜アリーナで開催したい」と最大収容人数1万7000人の会場での開催もぶちあげた。本当にそれが実現するのではないか。そう思えるほど、デイントンCEOの笑顔は自信に満ちていた。(荻島弘一)
(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)
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