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路上で始めた卓球で世界トップ10入り 転がる屋根板をラケットに…貧困を強いられた“7人兄弟末っ子”が繋ぐバトン――クアドリ・アルナ

自身の境遇から、今ではナイジェリアの卓球教育を後押ししている【写真:WTT提供】
自身の境遇から、今ではナイジェリアの卓球教育を後押ししている【写真:WTT提供】

2014年W杯で大躍進…母国の卓球普及に尽力するワケ

 着実に実力を伸ばし、国際大会でもアルナの名は広まっていく。24歳で2012年ロンドン五輪に初出場。そして2014年に行われたワールドカップ(W杯)デュッセルドルフ大会、松平健太ら格上を次々破って準々決勝に進出する大躍進を見せ、世界ランキング30位以内に名を連ねた初のアフリカ選手に。卓球界の勢力図に一石を投じた瞬間は今でも忘れられないという。

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「最高の思い出の1つさ。すごく嬉しかったんだ。夢のようだったけど、どうやらそうじゃなかったみたいだしね。幸せだったよ。そこから諦めずに努力を続けようと決めたんだ」

 その年の世界で最も活躍した選手に贈られる「ITTFスターアワード」を受賞し、2022年には世界ランク10位まで上り詰めた。オリンピックは2016年リオ、2021年東京と3大会連続で出場している。

 だが、日本や中国などの卓球大国と違い、国からの経済的な支援は少ない。世界トッププレーヤーとなっても、世界各国で行われる大会に出場する際は自費渡航がほとんどだ。それでもプレーし続ける理由をこう明かす。

「ナイジェリアではほとんどお金を出してくれない。それでも自分のやりたいことをやりたい。本当に好きなことだからずっと続けられるんだ」

 趣味で始めた卓球への愛を今も貫き、2020年に「アルナ・スポーツ・アカデミー」を設立。ナイジェリアの恵まれない子供たちに卓球の用具を寄付し、オンライン授業や実戦授業で自国の卓球教育を後押ししている。その背景には自身の生まれ育った環境があった。

「僕が子供の頃は、(卓球の)用具を手に入れることは簡単じゃなかった。今の僕には余裕がある。だから社会に貢献しようと決めたんだ。昔はトップ選手も多く、政府からの支援も厚かった。でも最近は減ってきてしまっているしね」

 自らの境遇があってこそ、次世代教育にも力を入れているアルナ。自身の流儀を笑いながら明かしてくれた。「戦い続け、決して諦めないことだ。努力がいつか報われるかもしれないからね」。今大会は1回戦敗退に終わったが、滞在中の9日に37歳になった。路上から這い上がった男は、まだまだ努力を積み重ねるつもりだ。

(THE ANSWER編集部・戸田 湧大 / Yudai Toda)

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