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ユース年代の“球数制限ルール”はTJ手術を防いだか 故障割合が再び上昇、2つの要因「今日の投手たちは…」

フライシグ博士が考える2つの要因

 フライシグ博士は「第一に、特にトラベルチームなどで投げる子どもたちについて、投球数制限が緩和されているように思われます。これは証拠となるデータを持っているわけではありませんが。第二に、すべてのレベルの投手が、可能な限り最大のスピードで投げることを重視するようになったことです。過去の投手たちは、優れた投球フォーム、コントロール、緩急などに重点を置いていましたが、今日の投手たちはどのレベルでも、レーダーガンを光らせることばかりを追い求めています」と分析した。

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 補足すると、トラベルチームとは、学校外の競技チームのことで、高い競技レベルの対戦を求めて遠くまで出かけていって試合をすることから「トラベル」といわれている。一般には、トラベルチームよりも、高校の野球部のほうが、州の高校体育協会の競技規則に従っており、投球数に関する規則も守っているとみられている。しかし、多くの選手は、高校の野球部に在籍しながら、学校野球部のシーズンオフ期間にはトラベルチームでプレーすることが多い。また、高校の野球部に入るまでの小学生や中学生時代に、トラベルチームでプレーし、すでに投げ過ぎているケースも珍しくない。

 投球数を守るためのソフトウェアを開発したジェフ・ウィームスさんは「投球数を数えるだけのケースがたくさんあり、単純な記録ミスも多かった。投球数と休養日の規則だけでは怪我をなくせないという人もいるが、しっかりと守られていないのに、効果を評価することはできない」と話した。

 もうひとつはより速いボールを追求する現代の野球スタイルが要因だという。より速い球を投げられるほうが優位に立てるから、メジャーリーグでも、速球の平均球速は上がっている。体を作り、けがをしない投球フォームを身につけながら、なおかつ速い球を投げられたら理想的だろう。しかし、中高生年代の選手にまずはフォームや投球術からといっても、目の前の試合には勝ちたいし、一定の球速がないと大学やプロのスカウトの目にとまらないとなれば、そうそう落ち着いていられない気持ちもわかる。

 速い球を投げることだけを重要視してはいけないということを禁じることはできない。速球派投手の育成は、手術のリスクを前提とするものなのか。フライシグ博士は「メジャーリーグ機構は、トミー・ジョン手術の蔓延を食い止めるために再び専門家による委員会を設置する」とした。速球全盛時代における青少年向けの新たな予防策が議論されることになった。

(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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