五輪で人気種目も…銃社会アメリカ、校内乱射事件と高校射撃部 難しい「防止」と「活動」の両立
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「銃社会、校内乱射事件と高校射撃部」。

「Sports From USA」―今回は「銃社会、校内乱射事件と高校射撃部」
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「銃社会、校内乱射事件と高校射撃部」。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
◇ ◇ ◇
何度かレポートしてきたが、アメリカは学校で運動部活動を行っている。アメリカンフットボール部、バスケットボール部、サッカー部、野球部、ソフトボール部などが参加人数の多い種目だ。ライフル射撃部を持つ学校も、州の高校体育協会に登録されているだけで219校ある(ただし、エアライフルのみは170校)。州の高校体育協会には加盟していないが、米軍がスポンサーとなっているJROTC(Junior Reserve Officers’ Training Corps)と呼ばれるジュニア予備役将校訓練課程が、学校の課外活動の形で射撃チームとして活動していることもある。
射撃競技は精密さ、集中力が求められ、オリンピックの人気種目でもある。射撃競技そのものの危険は少なく、犯罪を引き起こすものではない。それどころか、射撃部の活動は他のスポーツに比べてけがが少なくて安全な種目である。コンタクトスポーツでもないので、深刻なけがが少ない。学校における射撃部では性別にかかわらずにともに活動することができ、また、足の不自由な生徒が部の一員として活躍している事例もある。
日本でも射撃部を持つ高校はあるが、学校で銃の乱射事件が頻繁に起こるアメリカでは「学校における銃乱射事件を防ぐ」ことと、学校の射撃部として活動することを両立させることは難しい。学校での乱射事件を防ぐため学校に銃を持ち込まないように入口に探知機を入れている学校も珍しくないが、射撃部の活動のために学校に銃を入れてしまうことになるという問題がある。
そして、もうひとつには、スポンサーに全米ライフル協会をつけている射撃部があることだ。全米ライフル協会は、銃規制に反対をする銃を擁護するロビー団体でもある。
2018年3月29日付のワシントンポスト紙には、全米ライフル協会が高校射撃部のスポンサーになろうとしたところ、学区教育委員会がこれを拒否する決定をしたことが報じられている。記事によると、ペンシルバニア州にある高校射撃部では、1970年代の古いライフルしか持っておらず、新しい用具を必要としていた。そこに全米ライフル協会から4730ドルの補助を受けられることになったのだが、学区の教育委員の投票の結果、これを認めなかったというものだ。高校生の射撃部員は教育委員会に対し「私は銃規制強化に賛成です。そして、私たちの競技用ライフルは人を殺しません」と意見を述べ、補助を受けられるように求めたという。
公開されている全米ライフル協会の納税書類によると2010年から2016年にかけて、競技射撃だけでなく、ハンティングセーフティークラス、農業クラスなどの名目も含めて、あわせて500校の高校が総計で730万ドルを受け取っていたことがわかった。