経営危機報道の中で選手勧誘に奔走…重視したのは「内面」

　経営不振が表面化している日産自動車はこの春、2009年に休部していた野球部を16年ぶりに復活させる。17日には神奈川県横須賀市に22人の選手と首脳陣が集まり、体制発表と報道陣への練習公開を行った。折しも同業のホンダとの経営統合交渉の打ち切りが発表されたばかり。このタイミングで企業スポーツを復活させる意味を、伊藤祐樹監督はどのように受け取っているのだろうか。

　午前9時から横須賀スタジアムで行われた練習公開で、挨拶に立った指揮官の口からも「会社は大変厳しい状況にありますが……」という言葉がこぼれた。日産は13日に、2025年3月期の決算が800億円の赤字見込みとなることを発表。財界の注目を集めた同業のホンダとの経営統合交渉も打ち切られた。

　野球部の復活が発表されたのは2023年9月。この1年半で、会社を取り巻く状況は大きく変わった。野球部復活プロジェクトの中心として、1年間かけて選手を集めてきた伊藤監督は、一期生となる選手に不可欠だと考えた資質がある。

「言葉にすると当たり前かもしれませんが、とにかく一所懸命やっている選手ということです。気持ちがあるプレーは、見ていても伝わると思うんです」

　試合を見るだけでなく、選手の内面を知ろうとリサーチを繰り返した。「日産の者だとは明かさずに、知らないふりをして指導者やマネジャーに聞いたりしました。『いつも1人で練習してます』とか聞き出したり。チームをイチから立ち上げるのにふさわしいメンバーが欲しかった」。地方の大学にいる選手とは、何度も会えるわけではない。その場合はリモートの面談も併用して、選手の内面に迫った。それも、野球を通じて、苦境にある会社の力にならなければとの思いからだ。

「野球部がこれから復活していく中で、チャレンジしなければいけないことがたくさんあると思うんです。それは会社も同じです。私は『復活する日産』の野球部を作るつもりでいるので」