引退稲本潤一に小野伸二が「あー負けた!」 欧州で叫んだ22年前の夏、天才が抱いた「エリート」への畏怖
サッカー元日本代表MF稲本潤一が4日、今季限りでの現役引退を発表した。Jリーグ史上最年少ゴールにはじまり、2002年日韓W杯での“衝撃の2発”で日本中のファンを熱狂させた。海外名門クラブにも移籍し、衝撃的な活躍も見せた45歳に対し、同じ「黄金世代」の一員として欧州の強豪とわたり合っていた小野伸二氏が抱いていた“尊敬と畏怖”。そして、日本復帰後にチームメートとなった中村憲剛氏が気づいた“意外性”。2人のレジェンドが現役時代に感じていたこととは――。(本文敬称略)
天才の快挙を“消した”衝撃のハットトリック
サッカー元日本代表MF稲本潤一が4日、今季限りでの現役引退を発表した。Jリーグ史上最年少ゴールにはじまり、2002年日韓W杯での“衝撃の2発”で日本中のファンを熱狂させた。海外名門クラブにも移籍し、衝撃的な活躍も見せた45歳に対し、同じ「黄金世代」の一員として欧州の強豪とわたり合っていた小野伸二氏が抱いていた“尊敬と畏怖”。そして、日本復帰後にチームメートとなった中村憲剛氏が気づいた“意外性”。2人のレジェンドが現役時代に感じていたこととは――。
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2002年8月27日。オランダ1部フェイエノールトで2年目のシーズンをスタートさせていた小野はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)予選3回戦第2戦のため、トルコ・イスタンブールにいた。相手は熱狂的な応援で知られるフェネルバフチェ。ロッテルダムでの第1戦で貴重な決勝ゴールを挙げ、第2戦でも後半に先制ゴールを奪い、チームを欧州CL本大会に導いた。日本人選手が欧州CLの舞台でホーム&アウェーの両方でゴールを決めたのは史上初の快挙。自分を含め、取材に訪れていた日本人記者もどこか誇らしげだった。
だが、そんな思いは一つの情報で一変した。「どうやら稲本がハットトリックしたらしい」。このシーズンからイングランド・プレミアリーグのフラムに移籍した稲本は同時刻に行われていたインタートトカップ(当時のUEFA杯予選)決勝でボローニャ相手に3得点の大暴れで、チームは本大会進出を決めた。
その情報を伝えられた小野は開口一番「あー、負けた」と天を仰いだ。大会の格で言えば欧州CLのほうが上。小野が快挙を成し遂げたことに変わりはない。「そんなことないでしょ」と声を掛けると、こんな言葉が返ってきた。
「いやいや、やっぱり負けですよ。サッカーってゴールを決めるスポーツですから、どんな試合でもハットトリックした選手はすごいんですよ。今日は僕もイナ(稲本)も試合に勝った。だから個人の勝負では僕の負けなんです。また頑張ろ!」
そこから年月が経ち、小野に改めて当時の稲本についての話を聞いた。「僕の快挙を邪魔したヤツですね」と笑いながら話すと、こう続けた。
「イナってやっぱりエリートなんですよ。そういう星のもとにいるというか。だから光る時はとんでもなく輝く。そうなると僕なんて足元にも及ばない。もうね、怖いという感じさえあります。でも、そういう仲間がいたから僕も頑張れたんだなと今でも思いますね」
天才の名をほしいままにした小野でさえ嫉妬した稲本の才能と運命の力だった。