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20年前の競馬界で賛否分かれた調整法 先日天国へ、デルタブルースが証明した名伯楽の戦略「G1を勝つ馬は…」

秋のG1シーズンに突入し、盛り上がりを見せる中央競馬。今週は3歳牡馬クラシック最終戦・菊花賞が20日に京都競馬場で行われる。先週から始まった新企画「調教捜査官の回顧録」では競馬ライターの井内利彰氏が調教を通じてさまざまな視点から過去のG1レースを振り返る。今回は菊花賞の勝利で、その後の厩舎の大躍進のキッカケを作った馬の成長物語。当時としては異例の調整法をとった名伯楽の言葉と戦略に衝撃を受けたという。

2004年の菊花賞を勝利したデルタブルースと岩田康誠騎手(左)、角居勝彦調教師(左から2人目)【写真:産経新聞社】
2004年の菊花賞を勝利したデルタブルースと岩田康誠騎手(左)、角居勝彦調教師(左から2人目)【写真:産経新聞社】

2004年菊花賞を勝ったデルタブルース

 秋のG1シーズンに突入し、盛り上がりを見せる中央競馬。今週は3歳牡馬クラシック最終戦・菊花賞が20日に京都競馬場で行われる。先週から始まった新企画「調教捜査官の回顧録」では競馬ライターの井内利彰氏が調教を通じてさまざまな視点から過去のG1レースを振り返る。今回は菊花賞の勝利で、その後の厩舎の大躍進のキッカケを作った馬の成長物語。当時としては異例の調整法をとった名伯楽の言葉と戦略に衝撃を受けたという。

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 私が現在も出演させていただいている「競馬予想TV!」に初めて出演したのが、2001年12月15日。この時、阪神牝馬Sでエアトゥーレに◎を打ち、2着ムーンライトタンゴにも印を打っていて、馬連118.4倍を的中。当時はまだ3連複も3連単も発売していなかったので「馬連万馬券」は野球で言うホームランと同じ扱いでした。

 初登場でこれを的中させたものだから、視聴者はその後も「穴馬券」を期待します。こちらもそれを求められていることが分かるから、できる限り人気薄から本命を選ぶという予想が続きます。ただ、このスタイルについてはあるレースをきっかけに変化するのですが、それはまたの機会に……。

 番組に出演して3年目の2004年菊花賞。この年の1番人気はハーツクライ。日本ダービーで2着となり、秋初戦の菊花賞トライアル、神戸新聞杯は3着だったので、本番で1番人気になるのは当然でした。ただ、単純に1番人気を本命にするなんて性に合わないし、期待もされていないので、穴馬探しに躍起になりました。その方法は過去の菊花賞を好走した馬の調教パターンに類似するもの。京都芝3000メートルで行われる菊花賞は豊富な運動量が武器になるということで、追い切り本数の多い馬から本命を選ぶことが大前提でした。

 追い切り本数の多い馬は何頭かいましたが、その中で本命を打ったのはデルタブルースでした。決め手の一つは芝2400m、芝2500mの距離経験が豊富だったことですが、もう一つは半端ない追い切りの本数。10月2日の九十九里特別を勝って、中2週のローテーションでしたが、10月7日には坂路で15-15の時計を出しています。そもそも、レースが終わって1週間も経たないうちに追い切りを開始することが異例。ただ、所属の角居勝彦厩舎は普段の調教が15-15(1ハロン=200メートルを15秒平均で馬を走らせること)になることはよくありました。

 この調教パターン、今でこそ普通になりましたが、当時は「追い切りではない日に時計を出すなんてオーバーワークになる」といった考え方を持つ調教師もいて、当時の調教パターンとしてはまさに賛否両論。まして、当時の角居厩舎は開業して間もなく、G1は勝っていませんでしたから、他の厩舎からは物珍しく見られていたと思います。

 ただ、デルタブルースで菊花賞を勝ち、厩舎初G1勝利を挙げると、その翌年にはシーザリオがオークスを勝ち、その次の年にはウオッカがデビューして阪神JFを勝ちます。ウオッカは牝馬ながら、後に日本ダービーも勝ってしまいますが、そのウオッカも追い切り本数の多い調教が特徴的でした。

 当時、角居調教師に取材させていただき、追い切りの本数が多い厩舎の調教パターンについて伺ったところ「G1を勝つような馬は15-15くらいの時計は楽に出てしまうんですよ。逆に15-15くらいの負荷をかけないと調教にならないので」と教えていただきました。当時の言葉は僕にとって衝撃的で、いろんなところでこの話を書いたような気がします。その後「G1を勝つような馬は15-15は楽に出る」という考え方が通説になったんだと認識しています。

 単勝45.1倍での勝利で予想が称賛されたことはもちろんなのですが、調教捜査官の私にとっては「重賞実績がなくても、調教量が豊富なことでG1を勝つことができる」ということを教えてくれたレースでもありました。ただ、ここで強調しておきたいのは、無理に調教を課すことが重要なのではなく、その馬のペースで自然と調教量が多くなることが馬を強くしていくことなんだと思います。ちなみにデルタブルースはこれだけ調教量が多かったのに、レース当日の馬体重が10キロ増えていたので「やるだけ実になった」ということなのでしょう。

 そんなデルタブルースが先日、亡くなったことが伝えられました。今週が菊花賞ということを思えば、まるで「僕のことを思い出してね」と言わんばかりのタイミングです。競馬はロマンだと思いますから、皆さんなりにデルタブルースを思い出しながら菊花賞を予想してもらえると、きっとデルタブルースも喜ぶのかな、なんて思ったりします。

(井内 利彰 / Toshiaki Iuchi)

井内 利彰

調教をスポーツ科学的に分析した適性理論「調教Gメン」を操る調教捜査官。競馬予想TV!(フジテレビONE)に出演中。JRAの競馬場、ウインズのイベントに出演し、JRA主催のビギナーズセミナーの講師としても活躍。著書に「競馬に強くなる調教欄の取扱説明書」「調教Gメン-調教欄だけで荒稼ぎできる競馬必勝法」「調教師白井寿昭G1勝利の方程式」などがある。

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