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五輪に「見てくれる人に感動を」は無くていい 聖人化するアスリート、過度に清く正しくが求められる理由――陸上・為末大

アスリートが持つ説得力には「スポーツの分かりやすさ」がある【写真:荒川祐史】
アスリートが持つ説得力には「スポーツの分かりやすさ」がある【写真:荒川祐史】

アスリートが説得力を持つ理由に「スポーツの分かりやすさ」

 なぜ、アスリートが説得力を持つか。それはスポーツの分かりやすさにあります。

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 背景には真摯に、一生懸命に競技をやって、命が燃え、そういう瞬間が目に焼き付いているから、響くものがあるのではないか。それが大事な価値である気がします。そして、我々が人間であることを忘れてはいけない。この長い人類史において、ずっと動物として過ごし、最後の一瞬で我々はヒトに進化した。だから、根源的にインパクトを与えられるのは身体活動である。目の前で人が身体活動しているのは想起しやすい。動物的にその人の苦しみ、喜び、悩みを感じ取りやすいのです。

 また、スポーツは何かを代表することも多い。日本の代表、地域の代表、学校の代表……。それがアスリートの息苦しさに繋がる側面もありますが、何かを代表することが多く、第三者が投影する象徴になっている点にも価値があります。

 さて、パリ五輪は連日、熱戦が繰り広げられました。五輪こそ、時代に合わせて変化してきました。要請に合わせないと生き残れない側面もあったので。

 1984年のロサンゼルス五輪から今までの五輪が持っていた大きなテーマは「世界が一つになる」。産業も含めて、経済安全保障の考え方があります。経済的なやり取りが頻繁になるほど、相手国を攻めることのデメリットが大きくなる。結果、平和になる。これを五輪が後押しした気がします。

 各国、いろんな事情があるかもしれないけど、相互に競争しながらいろんな国が五輪に行き、グローバリゼーションを世界中に広げる後押しと、そのグローバリゼーションにより利益を受けるスポンサー企業の合わせ技。それをネガティブに見る面もありますが、そのおかげで世界中のいろんな国の選手たちが頑張る機会があり、最後に必ず閉会式でみんなが一つになる瞬間があり、4年に一度の良いものを観たなという一体化が生まれます。

 もちろん、多くの課題があるのは事実ですが、戦争が起きると五輪はできなくなる。実際、第二次世界大戦中はできませんでした。地球環境や人権問題など、いろんな課題があっても、五輪を開催できる環境に地球を保っていく意義は大きい。

 五輪を開催するためには、世界中から選手を派遣してもらわないといけない。そのためには各国のNF(国内競技連盟)が必要で、NFを維持するには国内もある程度の秩序が必要である。そんなことを含めると、世界が平和な環境でいられることも、五輪が最低限の担保をしているという考え方もできるのではないでしょうか。

 五輪は、ともすると教育的になりすぎるコンテンツだと思います。学校の先生が朝礼で話しやすい。「ああやって一生懸命、頑張ったから良いことが起こる」とか。でもそういうことじゃなく、人間が一生懸命やってきたら「まさか」も含めて、こんなことが起きるんだと面白がってもらうと、より楽しめると思います。

(続く)

■為末 大 / Dai Tamesue

 元陸上選手、Deportare Partners代表。1978年、広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2024年8月現在)。現在はスポーツ事業を行うほか、アスリートとしての学びをまとめた近著『熟達論:人はいつまでも学び、成長できる』を通じて、人間の熟達について探求する。その他、主な著作は『Winning Alone』『諦める力』など。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)


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