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表彰台の黒い手袋に衝撃「国際映像で絶対カットされない」 NHK実況アナが震えた五輪が4年に1度訪れる喜び

初めて現地取材したバルセロナ五輪で心揺さぶられる場面があった【写真:窪田亮】
初めて現地取材したバルセロナ五輪で心揺さぶられる場面があった【写真:窪田亮】

入局後、先輩アナに言われた言葉「君はオリンピックが4年に1回自動的に来ると思っていないか?」

 入局間もなく、会社の、そしてスポーツアナウンサーの大先輩である西田善夫に言われたことは今もはっきりと覚えている。

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「西田さんから『君はアナウンサーになって何がやりたいの?』と聞かれたので『オリンピックです』と答えました。続けて『君はオリンピックが4年に1回自動的に来ると思っていないか?』とまた聞かれたから『はい』と返すと、西田さんは言ったんです。『近代オリンピックっていうのはまだ100年の歴史もない。世界中の国が4年に1回、夏冬なら2年に1回、みんなで集まりましょうっていう強い思いがなければ、あっという間になくなっちゃうよ』と。そうなのか、と思いましたね。どこかの国が、オリンピックなんてやめようと言い出したらどうなるかなんてわかりません。西田さんの言葉によってそういう視点を持てるようになりました」

 勉強を兼ねて過去のオリンピック番組を見ていく際に、印象に強く残ったのが1964年東京オリンピックの閉会式だった。国別に行進する予定だったが、入り混ざって一団となって入ってくる。そのときアナウンサーが添えるコメントが、刈屋の意識を変えることになる。

「選手たちがごちゃごちゃになって入ってきて、みんな陽気で楽しそうなんです。アナウンサーが『国境もなく、人種も民族も宗教も政治体制も関係なく、すべての人が混在する幸せ。これが平和の姿。人類の平和とはこういうものであろうと胸の熱くなる瞬間であります』と伝えました。元々そういう見識を持っていないと喋れませんし、会場の空気感をどう捉えて、どんな言葉で表現するのか。たとえいいことを言っても伝わらないケースは少なくありません。言葉の選択もそうですが、言うタイミングが大事だなと感じました」

 オリンピックとは何か、オリンピックとの実況とは何か。入局してからのオリンピック中継は日本にいて学びながら、日ごろのスポーツ中継などで研さんを積みながら、初めて現地に赴いたのが1992年のバルセロナ五輪だった。オリンピックとは何かを目の当たりにすることができた。

「西田さんが1976年のモントリオールオリンピック閉会式の最後に『4年後もオリンピックができる平和な世界でありますように』と語っていますが、4年後のモスクワ大会はソ連によるアフガニスタン侵攻への抗議で日本を含む西側諸国がボイコットし、その4年後のロサンゼルス大会は逆に東側諸国がボイコットしたわけです。88年のソウル大会においては大韓航空機爆破事件は濡れ衣だとして北朝鮮が抗議してボイコット。つまり世界みんなで集まれないことが続きました。

 そして僕が行ったバルセロナ大会は、169の国・地域から集まった。聖火台の斜め下くらいのところから開会式を見ていて、全選手が競技場に入り終えた後、選手たちの真ん中が割れて白い布が出てきて左右に広がって全体を覆っていきました。選手みんなで広げていったのが、巨大な五輪旗。ようやく今、世界が揃いましたよっていうメッセージ。心を揺さぶられるような思いで見ていました」

 刈屋はバルセロナ以降、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティ、アテネ、トリノ、バンクーバーと夏冬合わせて8大会、現地からの実況を担当している。開催地に世界中が集まる喜びを感じながら、誠心誠意、共有できる言葉を届けようと心掛けた。

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二宮 寿朗

1972年生まれ、愛媛県出身。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。2006年に退社後、「Number」編集部を経て独立した。サッカーをはじめ格闘技やボクシング、ラグビーなどを追い、インタビューでは取材対象者と信頼関係を築きながら内面に鋭く迫る。著書に『松田直樹を忘れない』(三栄書房)、『中村俊輔 サッカー覚書』(文藝春秋、共著)、『鉄人の思考法~1980年生まれ戦い続けるアスリート』(集英社)、『ベイスターズ再建録』(双葉社)などがある。

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