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「オリンピック貴族が潤うためではいけない」 平和思想を担う五輪で考えるべき商業主義と勝利至上主義

改めて考える商業主義と勝利至上主義

――5大陸をつなぐ国際聖火リレーの復活は、今回もありませんでしたね。

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「2004年のアテネ大会で初めて実施され、大成功を収めましたよね。翌2008年の北京大会では私も採火式のリハーサルを見ることができました。古代ギリシャの巫女に扮した女優が太陽神アポロンに祈りを捧げ、“世界の人々に平和を伝えよ”と大陸を回って平和メッセージを伝えていくよう願います。ただ、国際聖火リレーが出発した矢先、オリンピア市と姉妹都市の提携関係にある愛知県稲沢市の中学生たちが走っていたところ、中国政府に抗議して『フリー・チベット』を叫ぶ人たちが妨害する場面に出くわしました。国際聖火リレーでは、世界各地でこのような混乱が起こったため、IOCはその後“国内ルートを推奨する”と決定を下して、止めてしまいます。とても残念でしたし、オリンピックムーブメントにおいても非常に意義深いものだと思うので、いずれ再開してもらいたいですね」

――舛本さんには「オリンピックと平和」をベースに話をうかがってきました。最後に、現代オリンピックからのぞく側面についてお聞きしたいと思います。まず今の商業主義についてはどのように感じていますか。

「スポーツに限らず大きなイベントをやるにはお金が掛かりますよね。ですからお金を全否定しているわけではありません。要は、IOCが集めたものを誰のために使うかを見ていく必要があるでしょう。使うべきは選手のため、競技のため、あるいはSDGsを支援していくため。決してオリンピック貴族が潤うためであってはいけない。私の意見としてはたとえばオリンピックに資金を出すスポンサーも、SDGsのこの目的で使ってほしいなどと“ひも付き金”すればどうか。どう使うかというところは詰めていく必要があるでしょうね」

――ドーピングなど勝利至上主義における負の部分も問題として挙げられます。

「勝利主義と、勝利至上主義は違います。勝利主義は、フェアプレーのもとに勝利を目指す主義。一方の勝利至上主義は、アンフェアな行為をやってでも何としてでも勝とうとする行き過ぎたものです。フェアプレーの精神のもとに競技するという精神を失ってはいけません。勝利至上主義というものはオリンピズムに反したものです」

――これからのオリンピックはどうあるべきだと考えますか?

「アテネの恒久開催がいいとは思いますが、開催国側の視点に立てばいかに負荷が掛からない大会運営ができるかでしょうね。また選手側の視点に立てば、オリンピズムを正しく理解して行動していただきたい。勝つことを目指すだけなら世界選手権とそう変わらない。選手村に入って交流する、オリンピック休戦の壁画にきちんとメッセージを残していく、そして試合ではフェアプレーの精神をもとに、エクセレンス、リスペクト、フレンドシップというオリンピックの価値を大切にする。選手に対するオリンピック教育もしっかりやっていくべきだと考えます」

(終わり)

(二宮 寿朗 / Toshio Ninomiya)


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二宮 寿朗

1972年生まれ、愛媛県出身。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。2006年に退社後、「Number」編集部を経て独立した。サッカーをはじめ格闘技やボクシング、ラグビーなどを追い、インタビューでは取材対象者と信頼関係を築きながら内面に鋭く迫る。著書に『松田直樹を忘れない』(三栄書房)、『中村俊輔 サッカー覚書』(文藝春秋、共著)、『鉄人の思考法~1980年生まれ戦い続けるアスリート』(集英社)、『ベイスターズ再建録』(双葉社)などがある。

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