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44歳現役スプリンターが今も走り続ける理由 年齢を重ね、手に入れた「メダルより価値のある哲学」――陸上・末續慎吾

末續が考える、陸上が人を育てること【写真:荒川祐史】
末續が考える、陸上が人を育てること【写真:荒川祐史】

陸上競技を突き詰めて高まる言語化能力

 自分と同じ種目に臨む後輩たちの走りは楽しみにしている。ただし、あくまでも観衆として応援するのだという。

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 そんな陸上競技は人に何を与え、残してくれるのか。

「走るという行為はあまりにも原始的なので、わりと本質的なものや根源的なものが見えるようになります。インサイドに入っていく競技だから、物の成り立ちから見てしまう思考になるのでしょう。

 例えば、本を読んでいても要点がすぐに分かる。雑多な情報の中で要点を掴む能力が高くなります。陸上競技を突き詰めると本を読めるようになるし、書けるようにもなる。走るのは原始的で動物的だから、そこを突き詰めると人間としての言語化能力が高まる。僕は文章を書くのは得意ではなかったけれど、あまりエネルギーを使わずに書けるようになってきました。これは1つの解かもしれません。

 最近だと中距離の田中希実さんに注目しています。使う言葉の切れ味が鋭くて、知能が発達した人間が走っている感じです。あの親子鷹は物語が完結していないので、興味が湧きます。パリ五輪を見ながら、親子をつなぐビビットな絆について考えてみます」

 末續慎吾の競技人生にゴールはない。その時々の解を求めていく探求心があるかぎり、走り続ける。

 神様から授かったギフテッドがあるのだとしたら「何周も回って、僕は走ることが好き」。この一点に尽きるのだろう。

■末續 慎吾 / Shingo Suetsugu

 1980年6月2日生まれ、熊本県出身。九州学院高時代から全国にその名を轟かせると、東海大在学時の2000年シドニー大会で五輪初出場。03年6月の日本選手権男子200メートルで現在も破られていない20秒03の日本記録を叩き出すと、同年8月に開催された世界陸上パリ大会の同種目で3位となり、五輪・世界陸上を通じて日本短距離界初となるメダルを獲得した。3度目の五輪となった08年北京大会では、男子4×100メートルリレーで第2走者を務めて銀メダル獲得に貢献。15年にプロ転向。44歳となった現在も現役ランナーとして競技を続けており、100メートル10秒台をキープしている現役スプリンターでもある。18年に設立した「EAGLERUN」を通じて後進の育成やスポーツの普及に努めている。

(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)


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