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阿部詩の号泣に見た五輪柔道の怖さ 他競技と違う位置づけ、柔道にとって「五輪は命がけ」の理由

活躍したスケートボード女子とはあまりに対照的だった五輪の位置づけ

 だからこそ、五輪の柔道は怖い。極論すれば、世界選手権など他の大会はどうでもいい。世界選手権で勝ち続けることで、ライバルたちのマークは厳しくなる。より研究もされる。ケルディヨロワは「阿部選手に勝つことだけを考えていた」と話したし、増地監督は阿部の敗因として「相手がよく研究していた」ことをあげた。

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 もちろん、阿部自身は勝ち続けながらも進化を目指した。「このままで勝てるほど五輪は甘くない」と話していたし、実際により強くなるための努力もしていたはず。ただ、勝ち続けると自身の弱点は見えにくくなる。実際にやられた経験がないと、想像しにくくなる。

 実際に、世界王者の五輪成績は決してよくない。過去20年、五輪前年の世界選手権優勝者70人中、五輪優勝者は20人だけ。世界王者は「金メダル候補」だが、7人中5人は敗れている。五輪3連覇の野村忠宏も、世界選手権優勝は97年の1回だけ。五輪前年に息をひそめていたことが、柔道界唯一の3大会連続金メダルにつながったのかもしれない。

 ライバルたちに厳しくマークされる中、王者としてのプレッシャーとも戦わなければいけない。五輪が特別すぎる舞台だから、緊張感も相当なもの。阿部自身も「緊張」を口にした。普段の力、勝ち続けてきた力が出せなくなっても、不思議ではない。

 五輪柔道の怖さを感じた夜、スケートボード女子で日本勢が活躍した。世界ランク1位の吉沢が金、2位赤間が銀。3位レアウが銅。2年間積み重ねてきたポイント通りの結果だった。選手たちにとって、五輪本番は予選大会の延長。口にするのは「普段の大会と変わらない」という言葉は、五輪が「特別」な柔道とはあまりに対照的だ。

 まだまだ柔道は続く。昨年世界選手権を制した女子70キロ級の新添左季や同78キロ超級の素根輝、個人種目では日本初の親子2代金メダルを目指す男子100キロ超級の斉藤立。五輪が「特別」な柔道だからこそ、どんなドラマを見せてくれるか楽しみだ。

(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)


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荻島 弘一

1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

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