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サッカーは「ミスが必ず起こるスポーツ」 味方のミスも自分の責任に…11人の競技だから育まれる資質――サッカー・熊谷紗希

11人で行うサッカーには「みんなで助け合える良さがある」と熊谷は語る【写真:荒川祐史】
11人で行うサッカーには「みんなで助け合える良さがある」と熊谷は語る【写真:荒川祐史】

サッカーには「みんなで助け合える良さがある」

 地元の北海道から単身で宮城県に渡り、2006年から常盤木学園高校サッカー部に入部。そこでボランチとして主力となり、07年には高校2年ながらなでしこジャパンに初選出された。

 宮城の地で出会ったのが、同部の阿部由晴監督だ。

「阿部先生との出会いはすごく大きかったです。言われた言葉はたくさんありますが、基本的に褒められたことはなかったです。例えばチームメートが忘れ物をしたとか、ボールの数が合わない、空気が足りていないとか、本当に基本的なことでよく怒られていました(笑)。でも今も思い出すのは、『練習は100%から120%でやって、試合は別に80%でもいい』という言葉。練習でそれだけ出せるなら、試合ではもっと余裕をもって戦えると自分なりに解釈していましたし、実際にそうだなと思えたので、練習から一生懸命でした」

 学生時代の練習は厳しかったという。中には“練習嫌い”になりがちな選手もいただろう。ただ、熊谷に関しては真逆だった。

「試合より練習が好きっていうと、少し語弊があるかもしれないですが、試合ばかりで練習がちゃんとできないのはあまり好きじゃないんです。しんどい練習でも常に『自分にプラスになるから』という思いが強くて、嫌な思いはしたことがなかったです。むしろ達成感のほうが強かったです」

 ここまで話を聞きながら、サッカーに傾けられる情熱の根底には「好き」と「向上心」の2つが、他の誰よりも強いからだと感じる。しかし、果たしてそれだけなのだろうか。サッカーという競技に“特別な何か”があるからではないだろうか――。

 そう問うと、熊谷は「私はサッカーしかしてこなかったので、他のスポーツとの比較対象がないのですが……」と前置きして、こんな話をしてくれた。

「サッカーはミスが必ず起こるスポーツ。それを前提に考えた時、味方のミスは自分の責任でもあり、自分のミスもチームのミスになる。それをみんなで助け合える良さがありますよね。個人技も大事ですが、11人でやるスポーツなのでチーム力がないと強くはなれない。私の場合はそうしたチームとして戦うサッカーがあったから、ハマれたんだと思います。それに私はどのポジションでも、チームのために与えられた役割なのであれば全力でやります、というのはあります」

 責任感の強さは、持ち前の性格に加えてサッカーでさらに育まれた。高校時代から強烈なキャプテンシーでチームを引っ張り、なでしこジャパンでは2017年から主将に任命されている。リーダーとしての資質を持った選手で、自分でも「どちらかと言えば、真面目なタイプだったと思います」と照れ笑い。一方で、「高校生の時に初めてキャプテンを任された時は『絶対に怒られるポジションじゃん』って、正直思っていました」と笑いながら振り返る。

「言いたくないことも言わないといけないし、嫌われ役までいかないまでも、チームのためにぶつからないといけないこともあります。だからこそ、説得力のある行動をしようと心がけていました。それが人として成長するきっかけになったのかなと思います」

 与えられた主将という役割が、熊谷をサッカー選手としてだけではなく、人として大きく成長させたのは間違いない。

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金 明昱

1977年生まれ。大阪府出身の在日コリアン3世。新聞社記者、編集プロダクションなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めた後、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。2011年からは女子プロゴルフの取材も開始し、日韓の女子ゴルファーと親交を深める。現在はサッカー、ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。著書に『イ・ボミ 愛される力~日本人にいちばん愛される女性ゴルファーの行動哲学(メソッド)~』(光文社)。

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