阪神2軍で起きていた「走り革命」 若虎はいかに「163盗塁」の新記録を生んだのか
革命に導いた矢野2軍監督の存在、指揮官は“未知のジャンル”を吸収した
「意識してやっているなと感じる選手も増えました。凄くそこは大きかったですね。走りがスランプに陥る原因は、言われたことを意識してやっていたけど、あるタイミングでずれ始めてしまうことだと思っています。いいと思っていたはずの技術トレーニングが、いつしかスランプを作る原因になってしまうこともあるので、2か月に1回、『今、ちょっと走りずれてますよ』『本当ですか、そんな感じしなかったけど』という会話をしながら、映像を見てもらい『ここを直しましょう』という作業を繰り返しました」
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安定した技術を身に着けた選手たち。ただ、足を速くすれば、盗塁は増えるというわけではない。まずは塁に出なければならないし、出たとしてもサインが出なければ走れない。記録を作った要因は、矢野2軍監督の存在が大きかったという。
凄さを実感したのは就任当初の16年秋季キャンプ、移動のタクシーで一緒になった時のこと。当時、コーチだった矢野2軍監督は「秋本先生、走りって絶対大事ですよね。自分はそう思うんだけど」と訴えてきた。その夜、実際に監督、コーチ全員に座学で走りの重要性をレクチャーすると「思っていたことは間違いじゃなかった」と、さらに理解を深めたという。
「『俺の現役の時は“腰を落とせ”“踵から行け”と言われたけど、今はそういうもの(旧来の指導スタイル)を変えていかなきゃいけないんだよな』と自分の中で落とし込んでいました。大抵の人は『野球は野球、陸上は陸上でしょ』と分けてしまうもの。陸上の最先端はこうなんだと機転が利く監督さんであることは、実際に話して凄いと感じました。あれだけの競技力を持ち、あれだけの成果を挙げているのに、新しいトレーニングを積極的に取り入れようとする方でした」
未知のジャンルを貪欲に吸収しようとする姿勢だけでなく、実際に選手たちに指導するに姿についても感銘を受けた。
「ファームの試合を見に行くと、選手に対する言葉かけが怒るのではなく、凄くポジティブなんです。盗塁に関しても『失敗してもいい、どんどん行こう』と練習から言っています。選手も自信になるし、信頼感があるのではないでしょうか。指導者が走りの重要性を理解してくれた上で、積極的に盗塁という作戦を取り入れていました。足が速くなっているという実感から自信がつき、そこで後押ししてくれる監督という存在がいる、その両軸が整った結果だと思います」
そんな指導の下、結果を残したのが、島田、江越、熊谷だ。それぞれリーグ2、3、4位の26、25、23個を記録した。島田、熊谷については俊足を売りにして入団した韋駄天ルーキー。前評判を聞いていた秋本氏は、走りを初めて見た際に「まだまだ速くなる」と感じたという。