スキー複合・渡部暁斗が許せなかった「行動に移せない自分」 環境問題に向き合うアスリートの意義
日々の競技生活を送る中で、アスリートはさまざまな問題と向き合う。それは競技に限った話だけではない。冬季五輪で3大会連続メダルを獲得したノルディックスキー複合の第一人者、渡部暁斗(北野建設)は長らく頭の中にあった環境問題に取り組むため、一歩を踏み出した。なぜ今なのか。そして、アスリートがアクションを起こすことの意義はどこにあるのか。形になってきた「自分にできること」を語ってもらった。(文=二宮寿朗)
欧州遠征で感じた環境問題「山の雪が少なくなってきている」
日々の競技生活を送る中で、アスリートはさまざまな問題と向き合う。それは競技に限った話だけではない。冬季五輪で3大会連続メダルを獲得したノルディックスキー複合の第一人者、渡部暁斗(北野建設)は長らく頭の中にあった環境問題に取り組むため、一歩を踏み出した。なぜ今なのか。そして、アスリートがアクションを起こすことの意義はどこにあるのか。形になってきた「自分にできること」を語ってもらった。(文=二宮寿朗)
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社会貢献活動に精力的なアスリートが日本でも増えている。
【前編】ノルディック複合の第一人者が感謝 自分を見つめ直した先輩の叱咤 / スキー・ノルディック複合 渡部暁斗選手インタビュー(GROWINGへ)
【後編】ノルディック複合界のエースがたどり着いた「真の世界一」たる姿とは / スキー・ノルディック複合 渡部暁斗選手インタビュー(GROWINGへ)
冬季五輪では2014年のソチ、18年の平昌、22年の北京と現在3大会連続でメダルを獲得し、2017-18年シーズンにはワールドカップ(W杯)総合優勝を果たしたノルディックスキー複合の第一人者の渡部もその一人だ。
二酸化炭素排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にして競技生活を行う目的で“エコパートナー”を募集し、2022年11月にアメリカのサステナブランド「Allbirds(オールバーズ)と契約。遠征で1年に排出するとされる70トン分のクレジットを広告料とし、その全額を地元・長野県の森林クレジットの購入にあてる取り組みをスタートさせた。
環境問題に対する意識はずっと心にあったという。
「欧州に行くと、山の雪が年々少なくなっていることは実感しているのに、競技に集中したいから誰かがどうにかしてくれるだろうって行動に移せない自分がいました。でも地球温暖化って自分に一番身近な問題だし、現役のアスリートだろうがなかろうが、一人でも多くの人が取り組んでいかなきゃいけないよなって、そう思うんだったら自分もやんなきゃいけないな、と。新しいヘッドスポンサーを探すにあたって、ちょうどいいタイミングだから絡めてみようと考えたんです」
アスリートは大会で結果を残すことだけを考えていけばいいのか――。
きっかけはコロナ禍だった。外出できず“おうち時間”が続くなかでアスリートの存在意義についてこれまで以上に深く考えるようになったという。
「社会生活を営むには衣食住、医療といった環境がまずは必要で、例えばスポーツは真っ先に必要っていうわけではありませんよね。スポーツくじの助成金を使わせてもらったり、いろいろと優遇されたりしているのだから、もっとできることがあるんじゃないかなって個人的に感じたんです。勇気と感動を与えるのはもちろんのこと、プラスアルファしていくことがこれからのスポーツ界でも大事になってくるんじゃないかと思いました」
昨年4月には木曽町にクレジットを贈呈し、渡部自身もヒノキの苗木を植えている。メダリストの積極的なアクションは大きな反響を呼んだ。
「自分の影響力がどれほどなのかは分かりませんが、何か自分をきっかけに一人でも環境問題に取り組んだり、関心を持ってもらえたりしたらいいなと思います。僕としては自分ができることを続けていきたいなと思っています」