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失ってはいけない敗者へのリスペクト 激闘後の「勝者の振る舞い」にサッカー選手の本質が表れる

モドリッチが英雄として愛される理由

 ヨーロッパでは、勝者が敗者を敬うのが不文律になっている。

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 それは、中世から続く「騎士道精神」に由来するのかもしれない。誇り高き騎士としての心得、倫理観というのか。残忍な戦闘の中で、相手を切り倒した後も、どれだけ自分を保ち、誇り高く戦えるか。その献身には無私の勇気や慈悲心が求められ、「弱者を保護する」ほどの寛大な精神が欠かせない。その境地まで辿り着くことによって、騎士は最大限の栄誉を得るのだ。

 日本でも新渡戸稲造が書き記した「武士道」で似たことが記されている。武士たるもの、まずは正しい道を意味する「義」を追い求めるべきで、それには勇敢さや自分を律する心が必要になる。そして強くなった者は等しく寛大で「仁」の心を持って、人に接しなければならない。相手を憐れむ「惻隠の情」というのか。そうすることで、強者としての礼節を自然と身につけられるのだ。

 難しく聞こえるかもしれないが、サッカー選手も騎士道、武士道を重んじる選手が多くの場合、成功を収めている。

 リオネル・メッシが世界最高であり続ける理由も、そのキャラクターが1つにあるだろう。どれだけ卑劣なタックルを浴びても、メッシは争いそのものに執着せず、勝利に向かって突き進む。勝利後も、全力で挑んできた相手を愚弄する真似をしない。例えばリードを広げ、相手が瀕死状態なのをいいことに、股抜きで馬鹿にするようなプレーをせず、全力で仕留めるのだ。

 一方でブラジル代表のネイマールが、メッシとほぼ同等の能力を持ちながら劣ったのは、「騎士道で及ばなかった」からだろう。ネイマールは無邪気さか、マリーシアか、わざと大袈裟に倒れてファウルをアピールしたり、相手をからかうようなフェイントを仕掛けて遊んだり、挑発するようなゴールパフォーマンスで敵を作ったり、どこか人を食ったところがある。それを「やんちゃ」と片付ける意見もあるが、現場では敬意を欠いた行為として受け止められる。

 敵へのリスペクトを欠いてはならない。

 カタールW杯、クロアチア代表のルカ・モドリッチは準々決勝でブラジル代表をPK戦の末に下した後、PKを外したレアル・マドリードでのチームメート、ロドリゴのもとに駆け寄っている。意気消沈した同僚を抱きしめ、言葉を懸けていた。

「No pasa nada」(こんなのどうってことない)

 モドリッチが英雄的選手として愛される理由は、その卓越したテクニックだけではない。年下のチームメートに「PK失敗なんて気にするな、お前はいつか必ずW杯を勝ち取る」と声をかけられる器量にある。勝利した時の振る舞いに、選手の本質は出るのだ。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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