サッカーとバスケで「長崎に誇りを」 総工費800億円の新本拠地で描く「競技の枠を超えた共存」
V・ファーレンもヴェルカも応援する長崎の人々
地方都市を取材していると、JとBのクラブが同じホームタウンで活動していることが多く、小さい商圏でスポンサーやファンを奪い合うという話をよく耳にする。もちろん「共存共栄」が望ましいが、なかなか上手くいかないのが実情。長崎の場合は、サッカーもバスケもジャパネット傘下となっているため、むしろシナジー効果が期待できるという。
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「営業に関しては、お客様の取り合いになるという感覚はないですね。一緒にスポンサー営業に行くこともあります。サッカーとバスケ、どちらかを応援してくれてもありがたいですし、両方を応援してくれる企業さんもいらっしゃいます。我々の目的は、長崎の地域創生に共感し、行動していただけるパートナー企業・団体を増やしていくこと。ですから『サッカーもバスケもあります』という営業ができるんですよ」
ならば、ファン獲得についてはどうか? 外尾によれば今年の5月、ヴェルカがB1昇格セレブレーションをトラスタで行った時、V・ファーレンのサポーターが大いに祝ってくれたという。
「ヴェルカの試合にV・ファーレンのサポーターが来ることもあれば、トラスタにヴェルカのブースターが来ることもあります。どちらも応援している人はいても、両方嫌いという人はほとんどいないと思います。ですから、なるべく試合日や時間をバッティングさせず、どちらもハシゴできるようにしています。これも同じグループだから、できることですよね」
ヴェルカの取締役である田河も、先行してV・ファーレンがあったことが、クラブにとって大きなアドバンテージになったと考えている。
「地元のクラブを応援するという土台が、最初からあったのは大きかったですね。もともと長崎の人には、深い郷土愛がありますし、スポーツ観戦を好む傾向もあります。サッカーとバスケという競技の枠を超えて、これからもいい形で共存していけると思います」
そのV・ファーレンとヴェルカが、来年秋からは同じ長崎スタジアムシティでホームゲームを開催する。そのことによる相乗効果については、どんなビジョンを描いているのだろうか? 田河が挙げたキーワードは「たくさんのチャンス」であった。
「単なるエンタメの提供だけでなく、次世代に向けて、さまざまな可能性を生み出していきたいと思っています。プロの選手を輩出することも大切ですが、例えばスポーツビジネスで成功するような若者が出てきてもいい。たくさんのチャンスを作ることで、長崎出身者が自分たちに誇りが持てるような街とクラブにしていきたいですね」
新しいサッカースタジアムを街なかに作ること。それ自体が、大きなプロジェクトである。繰り返しになるが長崎の場合、バスケット用のアリーナも併設してBリーグクラブを誕生させ、さらに収益化のためにオフィスビルやホテルまで建設しているのである。
そんな壮大稀有なプロジェクトが、東京や大阪や名古屋といった大都市圏ではなく、本土の西の果ての地で進められていることに、新しい時代の波を感じずにはいられない。来年、訪れてみたいスタジアムが、また1つ増えた。(文中敬称略)
(宇都宮 徹壱 / Tetsuichi Utsunomiya)