誤審で「目立つのは当たり前」 仙台六大学野球の審判部長・坂本健太が批判覚悟で球場に立つ理由
没収試合を宣告するミスと苦い記憶
仙台六大学野球連盟付属審判部は今秋、ある「ミス」を犯した。
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9月2日の東北学院大vs東北工業大の第1戦。東北学院大は4-6で2点を追う9回、無死一塁から代打の選手の安打で一、二塁と好機を広げ、反撃ムードを漂わせていた。その直後、審判団が試合を中断し、連盟、両大学の監督と協議したのち、「没収試合」を宣告。メンバー表への記入ミスが原因で、東北学院大の代打の選手が登録時と異なる背番号で出場していたことが判明したのだ。
試合は東北工業大の9-0勝利扱いに。しかし、審判団のこの判断は誤りだった。背番号の記入ミスは以前であれば没収試合が適用されるケースだが、5年前に没収試合に関する規定が一部変更されていた。2018年1月12日に発せられた「全日本野球協会およびアマチュア野球規則委員会」の通達によると、「単純ミスの場合(監督とマネージャーの連絡ミスで、登録外選手が自チームの所属選手である場合など)には(没収試合を)適用しない」などとある。
翌日、審判団と連盟は両大学に謝罪した上で、没収試合を取り消した。9回無死一、二塁から再開する「継続試合」を行う案もあったが、両大学の監督の意向を受け、選手のコンディションなどを考慮して「8回コールドゲーム」(東北工業大の6-4勝利扱い)に変更することが決まった。
坂本は当日、仕事のため不在にしていた。「最初に聞いた時は冗談かと思った。誤審以前の重大なミスなので」。球場にいた審判員から電話で一報を受け、血の気が引いたのを覚えている。同時に、坂本の脳裏にはある記憶が蘇っていた。
仙台六大学では2018年以前に二度、背番号の記入ミスによる没収試合が成立している。そのうちの一度を、坂本は選手として経験していたのだ。
2007年9月1日、仙台大vs東北工業大第1戦。東北工業大が登録時と異なる背番号の選手を出場させたとして、審判団は没収試合を告げた。当時3年生だった坂本は、後輩マネージャーが泣きじゃくる姿を見て胸を痛めていた。
あれから16年。「没収試合取り消し」の数日後、東北学院大のマネージャーに謝罪した坂本は本人の前で涙を流した。
「自分の代のマネージャーを思い出して、情けないというか、申し訳ないというか……。あの時、選手間で『背番号の記入ミスくらい、なんとかならないのか』と話していて、2018年にようやく規則が変わったのに、防げなかった。自分は審判になって何をしているんだろう」
ひたすら悔やみ、猛省した。
今後は没収試合に関する新たな内規の制定を検討するなどし、再発防止に努める。審判に完璧はない。だが、規則の運用適用ミスはあってはならない。坂本は気を引き締め直し、これからも「空気」に徹する。(文中敬称略)
(川浪 康太郎 / Kotaro Kawanami)