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「クラブと心中する覚悟」で私財1億円 悲願の天然芝練習場も完成、愛媛FCを変革する父娘の物語

ニンジニアネットワークと愛媛FCの取締役を兼任する村上茉利江。現在は「仕事の9割」がJクラブなのに、なぜ東京を拠点としているのか?【写真:宇都宮徹壱】
ニンジニアネットワークと愛媛FCの取締役を兼任する村上茉利江。現在は「仕事の9割」がJクラブなのに、なぜ東京を拠点としているのか?【写真:宇都宮徹壱】

なぜ愛媛の取締役は東京から松山に通っているのか?

 茉利江に話を聞いたのは、松山市から遠く離れた、東京・渋谷にあるニンジニアネットワークの東京本社。1985年生まれの彼女は、高校卒業と同時に故郷の松山を離れて20年、ずっと東京を拠点としている。

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「今は、仕事の9割が愛媛FCです。ニンジニアのほうはオペレーションの仕組みができ上がっていて、社員がしっかり回してくれているので。逆に愛媛FCのほうは、どんどん変化させていく必要があって、そこにパワーを注ぎ込んでいる感じですね」

 愛媛のメインパートナーであり、スタジアムのネーミングライツも獲得しているニンジニアネットワークは、もともとは松山市で3代続く株式会社東洋印刷の関連会社であり、本社は伊予市と東京。他に北海道、愛知、大阪、広島、福岡にオフィスを持つ。コロナでリモートワークが普及するはるか以前から、本社と支社が常時ネットワークで結ばれており、壁面に設置された画面には、それぞれのオフィスの様子が映し出されている。

 確かにリモートワークは一般化したものの、Jクラブの取締役となれば、地元企業への営業や行政との折衝など、リアルでの関係性は欠かせない。茉利江が東京と松山で過ごす時間は「半々」とのことだが、わざわざ東京から通うのは相当の負担となるはず。なぜ、拠点を松山に移さないのだろうか?

「確かに松山にずっといたほうが、営業でもイベント参加でも楽は楽なんですよ。それでも東京を拠点としているのには理由があって、まず地元に染まりすぎないこと。客観性とスピードが失われることは、ビジネスの上で避けなければならないと考えるからです。もう1つは、東京のほうが情報を集めやすいこと。いくらネットが発達したとはいえ、やっぱり情報が入ってくるスピードと鮮度に関しては、圧倒的にこっちが有利です」

 大学卒業後、茉利江は日本IBM、経営コンサル企業のアバージェンスを経て、2016年に父・忠に呼び戻される形でニンジニアネットワークに入社。財務管理と営業の責任者として、社長の片腕以上の活躍を見せるようになる。愛媛FCに関わるようになったのは2021年から。当人いわく、最初は「アドバイザー的な役割」をイメージしていたそうだ。ところが、1年やってみて「これは本腰を入れないと」と考えを改めたという。

「組織変革のコンサルだったこともあって、クラブスタッフとワン・オン・ワンミーティングをしたんですが、みんな熱量が半端ないんですよ。生半可な向き合い方ではいけないと思うようになりました。それとやっぱり、この年にJ3に降格して悔しかったというのもあります。父の影響もあって、愛媛FCは身近な存在ではあったものの、それほどサッカーが好きだったわけではありません。それでもJ3降格がきっかけになって、気が付けば自分ごとになっていました」

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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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