「プロ意識が欠落した選手」を見てきた ブラジル人元Jコーチが高校生に説く心身を鍛える大切さ
きついトレーニングを「気合いで乗り越えようとはしない」
相生学院では、オフ明けの水曜日に肺に負荷がかかるメニューをこなし、木曜日にはウォームアップからボールを使ったスピードやパワーを使うトレーニングを行っている。また週に1度は、必ず筋トレを取り入れている。
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「最初はきつそうでしたが、今ではみんな平気な顔でこなしています。ただし1年生は最初から強度を上げると故障のリスクがあるので、体幹や筋トレなども焦らず慎重にゆっくりと取り組んでいます。だから2~3年生と1年生で紅白戦を行うと、強度には大きな違いが現れます」
上船監督は、さらに話を繋げていく。
「エルシオは、きついトレーニングを気合いで乗り越えようとはしません。例えばステップの仕方を一つ取り上げても、正しいフォームで実践することにこだわり、何を意識するかにとことんこだわります。だから、できない子がいればやり直しもするし、居残りでマスターさせることもあります。正確に動きを身につけた上で、もう一歩踏み出そうとする。そういう姿勢を見た時には『ナイス!』と声をかけています」
よく部活にありがちな交互に掛け声を張り上げて盛り上げようとする光景は、相生学院とは無縁だ。
エルシオは120人に一斉に同じメニューを課すことはなく、少人数のグループごとに分け、必ず個々に目を配り最善の効果を引き出すことに集中している。だから選手たちからの信頼も厚く、確実にチーム内にも自信が広がっている。実際に試合を終えた選手たちからは、こんな言葉が相次いでいるそうだ。
「エルシオのトレーニングをしているから、全然ばてないです!」
「オレたち、あの練習をこなしたんだから勝てるよな!」
上船監督は言う。
「見た目は細くても引き締まった体躯の選手が増えて、小さくても当たり負けをしなくなりました」
エルシオは、改めて考える。
「日本がブラジルに追いつく日が来るとすれば、フィジカルが大きなカギを握る」
ブラジルから来た伝道師は、こうして今、日本の未来を創っている。(文中敬称略)
(加部 究 / Kiwamu Kabe)