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「プロ意識が欠落した選手」を見てきた ブラジル人元Jコーチが高校生に説く心身を鍛える大切さ

きついトレーニングを「気合いで乗り越えようとはしない」

 相生学院では、オフ明けの水曜日に肺に負荷がかかるメニューをこなし、木曜日にはウォームアップからボールを使ったスピードやパワーを使うトレーニングを行っている。また週に1度は、必ず筋トレを取り入れている。

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「最初はきつそうでしたが、今ではみんな平気な顔でこなしています。ただし1年生は最初から強度を上げると故障のリスクがあるので、体幹や筋トレなども焦らず慎重にゆっくりと取り組んでいます。だから2~3年生と1年生で紅白戦を行うと、強度には大きな違いが現れます」

 上船監督は、さらに話を繋げていく。

「エルシオは、きついトレーニングを気合いで乗り越えようとはしません。例えばステップの仕方を一つ取り上げても、正しいフォームで実践することにこだわり、何を意識するかにとことんこだわります。だから、できない子がいればやり直しもするし、居残りでマスターさせることもあります。正確に動きを身につけた上で、もう一歩踏み出そうとする。そういう姿勢を見た時には『ナイス!』と声をかけています」

 よく部活にありがちな交互に掛け声を張り上げて盛り上げようとする光景は、相生学院とは無縁だ。

 エルシオは120人に一斉に同じメニューを課すことはなく、少人数のグループごとに分け、必ず個々に目を配り最善の効果を引き出すことに集中している。だから選手たちからの信頼も厚く、確実にチーム内にも自信が広がっている。実際に試合を終えた選手たちからは、こんな言葉が相次いでいるそうだ。

「エルシオのトレーニングをしているから、全然ばてないです!」
「オレたち、あの練習をこなしたんだから勝てるよな!」

 上船監督は言う。

「見た目は細くても引き締まった体躯の選手が増えて、小さくても当たり負けをしなくなりました」

 エルシオは、改めて考える。

「日本がブラジルに追いつく日が来るとすれば、フィジカルが大きなカギを握る」

 ブラジルから来た伝道師は、こうして今、日本の未来を創っている。(文中敬称略)

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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エルシオ

元Jリーグ・フィジカルコーチ 
1956年2月19日生まれ。ブラジル出身。現役時代はMFとしてポンチ・プレッタやサント・アンドレでプレーし、89年に川崎製鉄サッカー部へ移籍。同年限りで現役を引退すると指導者としてチームに残り、ヘッドコーチや監督を歴任した。93年に横浜フリューゲルスにフィジカルコーチとして加入すると、その後はJリーグや母国ブラジルのクラブを渡り歩いた。特に横浜フリューゲルス時代に選手として指導した反町康治氏(現・JFA技術委員長)の下で何度も仕事をし、アルビレックス新潟、湘南ベルマーレ、松本山雅FCでフィジカルコーチを務めた。昨季はSC相模原でフィジカルコーチを担当し、現在は相生学院高校サッカー部を指導している。

加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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