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「育成のガンバ」が目指す未来は? 30年前からの伝統を知る松波正信、禁断の移籍で抱いた危機感

2023年の大阪ダービーでのガンバのスターティングイレブン。松波氏は2度にわたり、シーズン途中でトップチームの監督を務めている【写真:宇都宮徹壱】
2023年の大阪ダービーでのガンバのスターティングイレブン。松波氏は2度にわたり、シーズン途中でトップチームの監督を務めている【写真:宇都宮徹壱】

37歳でトップチーム監督就任、J2降格で味わった挫折

 引退後の松波はガンバに残り、指導者の道を目指すこととなる。ガンバで引退して、そのまま指導者となるのは、当時ユース監督だった島田貴裕に次いで2人目。最初はコーチを務めていたが、島田がS級ライセンス取得に専念することとなり、2008年にはユースの監督に昇格。この年のJユースカップでは、チームを6年ぶりとなる優勝に導いている。

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 松波が育成の指導を始めた2006年当時、すでに「育成のガンバ」というブランドは確立されていた。そんな中でも松波は、現役引退から間もなかったこともあり、なるべく自分で手本を示して選手に体感させることに、指導の主眼を置いていたという。

「今とは違って、当時は人工芝が1面あるだけ。ユースとジュニアユースで半面ずつ使っていました。限られたスペースの中で、どうやって上手くなるのか。そこは指導者の腕の見せどころでしたね。そんな中、ウチが特に重視していたのが4対2のボール回し。判断とテクニックといった、サッカーの基本のすべてが、あの中に詰まっていますからね」

 その後、2009年にS級を取得すると、10年にトップチームのコーチに就任。ガンバの黄金時代を築き上げた、西野朗監督の下で2年間、学ぶこととなる。

「ガンバの育成に関して、西野さんからは『技術はあるけど、試合の勝負どころはまだまだ。もっとしっかり指導していかないと』とダメ出しされることもありました。それでも2年間、いろいろ学ばせていただきました。ただ、3年目で自分が監督になるとは思いませんでしたが」

 2012年、10シーズンにわたる西野監督時代が終わり、ブラジル人のジョゼ・カルロス・セホーンが新監督に就任(実際には、呂比須ワグナーとの2頭体制)。ところが開幕からの公式戦で5連敗を喫し、3月26日にはあっけなく解任されてしまう。後任の指揮官に選ばれたのは、コーチだった松波。クラブOBでは初、クラブ最年少(37歳)での就任であった。それでも当人は、極めて前向きに、このオファーを受け止めたという。

「どんな形であれ、チームを託してもらえたのは嬉しかったですね。『いつかは(トップチームの)監督に』と思っていましたから。自信ですか? 西野さんの下で2年間修行してきましたし、タレントも揃っていましたので『行けるんじゃないか』と。結果として力及ばず、J2降格となってしまったのは、本当に申し訳なく思っています」

 当人の言葉どおり、この年のガンバは17位に終わり、クラブ史上初のJ2降格が決定。天皇杯では3年ぶりに決勝に進出したものの、柏レイソルに敗れてACL連続出場は5大会で途切れることとなった。大会後、ガンバは松波監督の退任と、クラブアンバサダー就任を発表。それから1年後の2014年、松波はガンバから離れる決断を下す。

 新天地での仕事は、この年からJ3所属となったガイナーレ鳥取の監督。縁もゆかりもない土地だったが、当人いわく「将来的なキャリアアップになると思って、迷うことなく鳥取でお世話になることにしました」。高卒ルーキーでガンバに入団してから、すでに21年の歳月が流れていた。

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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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