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東大入学より険しいプロサッカー選手の道 才能より大切な鍛錬と「自分の武器」を考え抜く力

レアル・ソシエダに根づく「クロスの伝統」

 バルサの選手はほとんど狂いなくボールを止め、的確に叩けることで神戸を凌駕した。ピッチは雨で濡れていたし、簡単ではない。事実、神戸の選手たちはなんでもないパスが弾んでしまったり、コントロールに時間がかかったり、置きどころが悪かったり、自らを追い込んでいた。わずかな差だが、折り重なると決定的な差になった。

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 言うまでもないが、技術は習得するものである。バルサの若手は、センスに恵まれていたが、それをイニエスタのような先輩を見本に磨いている。分厚い練習の総量こそ、ディテールに出るのだ。

 スペイン史上最高レベルのキックを誇ったシャビ・アロンソは、日が暮れても練習場にある高い壁にボールを打ちつけていた。いつしか、ボールの跡が残るほどだった。蹴り始めた当初はキックが弱く、思うように飛ばなかったが、どのようにヒットすればボールが飛ぶのか。そのコツをつかみながら、筋力も鍛えたのだ。

 少数単位でのトレーニングも、成功のカギとなる。

 例えば久保建英が所属するレアル・ソシエダには、「クロスの伝統」がある。クロスに合わせるストロングヘッダー、鋭い軌道のクロスを蹴るウイングは一つのセットでトレーニングを重ねる。前者はマークを外し、タイミングを合わせ、最高点でボールを叩く鍛錬をし、後者は呼吸を合わせ、球種を選び、精度を高める。

 時代の中でマイナーチェンジはしているが、伝統は大きくは変わっていない。(2022-23シーズンのソシエダでリーグ戦12得点のFW)アレクサンダー・セルロトは前者だし、久保は後者だ。

「クロスに対するシュートの叩き方、質と強度はバスク人ストライカーの基本だよ」

 ラ・レアル(ソシエダの愛称)の下部組織スビエタ出身で、2005年にトップデビュー後、2018年までエースストライカーとして活躍したスペイン人FWイマノル・アギレチェはこう語っていた。

「エリアでの動き方が大事で、クロスを入れる選手との呼吸が欠かせない。前に動き過ぎてもタイミングがずれてしまう。味方の癖を見抜かないとね。アーリーで上げるのか、抜いてから上げるのか。シャビ・プリエトとは何年も一緒にやってきたから、一瞬で分かり合えた。クロスのチャンスは1試合で多くて2、3度だけど、全神経を使ってトレーニングしていた」

 バスク地方ではクロスからのゴールは見せ場の1つで、その使い手が尊ばれる。大柄な体躯の選手が多く、ゴール前での激しい攻防が愛されるサッカー文化もあるだろう。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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