スポーツ賭博が子どものスポーツに与える影響 5年で31兆円超が賭けられた米国の恩恵と問題点
一大ビジネスの恩恵と引き換えに何か失っていないか
――スポーツ賭博による税収を経済的に不利な立場にある子どものスポーツ財源に使おうとした理由は?
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
「アスペン研究所によると、スポーツをする青少年は、肥満になる確率が1/10で、必要とする医療費も少なく、心臓病、脳卒中、がん、糖尿病のリスクも低いとされています。また、彼らがスポーツをすることは、うつ病になる確率を下げ、テストの成績の向上、大学進学の可能性の増加、仕事での生産性の向上とも関連しています。彼らのスポーツへの参加を増やすことは、より強いコミュニティを作ることにもつながります。アスペン研究所のプロジェクトプレイによると、青少年のうち、毎日運動している人の割合が現在の16%から25%に増加するだけでも、ニューヨーク州西部では2億6000万ドル(約369億円)以上の医療費を抑えることができ、生産性低下の回避につながります。しかし、アスペン研究所は、世帯収入が2万5000ドル(約354万円)以下の子どもは、世帯収入が10万ドル(約1417万円)以上の人の3倍近い割合で運動不足に陥っているとしています。ですから、このアイデアは、より多くの青少年にスポーツをすることを奨励し、格差に対処することを目的としています」
――経済的支援が必要な子どもたちをどのように選んでいますか?
「人口に基づいて、まず郡の青少年局に割り当てられます。そして郡がどの団体を支援するのかを決めます」
――スポーツ賭博の広告があふれているが、子どもたちにどのような影響を与えていると思いますか?
「ニューヨーク州では、ギャンブルができるのは18歳以上の成人に制限されています。また、ニューヨーク州では、年間600万ドル(約8億5000万円)の賭け金収入を、ギャンブル依存症の教育や治療に充てています。どちらも、子どもや若者がギャンブル依存症になるのを防ぐことが目的です」
筆者は、税収の一部を使って経済的困窮でスポーツできない子どもたちに機会を与えるという理念には賛同しており、スポーツ賭博が貴重な州の税収になっていることも理解できる。しかし、スポーツ賭博の広告が子どもに与える影響を軽視しているのではないかと感じている。賭博を提供する業者は、新たな顧客を取り込むべくさまざまなキャンペーンを行っており、21歳以下をターゲットにしないという自主規制はあるが、スポーツのテレビ中継にも引退したばかりの元スター選手を起用したコマーシャルを流している。まぎらわしい表現である「リスクなし」などの広告の文言も、今年3月に規制されたばかりだ。
また、選手側が、賭けをした人から脅迫されるという出来事も起こっている。NBAのラプターズのクリス・ブーシェはスポーツ賭博した人からSNSに嫌がらせの言葉を書き込まれたとしている。また、大学スポーツもスポーツ賭博の対象として認めている州も多く、賭けの対象となっている大学スポーツの選手からも、ギャンブラーから脅迫されたという報告が多数出ている。全米の高校体育協会や連盟を取りまとめる全米高校協会連盟では、高校スポーツが賭けの対象とならないようにし、高校生選手を守るとした。
スポーツ賭博という一大ビジネスとそれによる税収恩恵と引き換えに、何か失っていないかをアメリカは見ているところと言えるのではないか。
余談だが、アメリカにはスポーツ振興くじと似た「50/50ラッフル」というものがあり、プロスポーツだけでなく、学校スポーツや他のチャリティイベントでも行われているものだ。これは、くじを買ってもらい、集まったお金の半分が寄付(学校スポーツの活動財源)になり、残り半分をくじの当選者に渡すものだ。
(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)