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新スタジアム誕生で30年の歴史に幕 「老朽化は否めない」広島ビッグアーチに抱く複雑な心情

さまざまな歴史を見つめてきたビッグアーチ。間もなくサンフレッチェ広島のホームスタジアムとしての役割を終える【写真:宇都宮徹壱】
さまざまな歴史を見つめてきたビッグアーチ。間もなくサンフレッチェ広島のホームスタジアムとしての役割を終える【写真:宇都宮徹壱】

ビッグアーチはサンフレッチェ広島にとって「聖地」となるか

 サンフレッチェ広島は、2007年も16位に沈んで2度目のJ2降格となっている。しかしこの時は、監督のミハイロ・ペトロヴィッチをはじめ、当時の主力選手の多くが残留。若手の台頭もあり、勝ち点100、得点99という驚異的な数字で、再び1年でのJ1復帰を決めた。

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 さらに、ペトロヴィッチから引き継いだ森保体制となってからは、2012年、13年、そして15年とリーグ優勝を達成。クラブ史上に燦然と輝く黄金時代は、まさにここビッグアーチで実現しているのである。

「僕は今でも、このスタジアムが大好きです」と、白石は実感をこめて語る。

「確かに屋根はないし、アクセスも決して良くないし、駐車場だってすぐにいっぱいになります。オープンから30年が過ぎていますから、施設そのものも老朽化は否めません。それでも降格の悔しさも、優勝や昇格の喜びも、このスタジアムとともにありました。僕自身、たくさんの思い出が詰まっていますし」

 一方で「新スタジアムのオープンが待ち遠しい」とも。長くこのクラブの仕事に携わってきた、白石ならではのアンビバレントな心情であろう。そしてそれは、古参サポーターにも共通するものであるようだ。

「昔から付き合いのある、サポーターの方々からも言われるんですよ。『白石さん、新しいスタジアムができても、年間1~2試合くらいは、ここでやろうよ』って。このスタジアムに愛着があるのは、僕だけじゃないんだなと(笑)。陸上競技の大会以外でも、たとえば子供たちの大会とか、サンフレッチェの周年記念イベントなんかはできるでしょうね。何と言っても『聖地』ですから」

 浦和レッズに浦和駒場スタジアムがあるように、横浜F・マリノスにニッパツ三ツ沢球技場があるように、サンフレッチェ広島に広島ビッグアーチがある。それはそれで、素晴らしいことだと感じるのは、私だけではないだろう。

 今回の取材を終えて、あらためて考えたことがある。もしもビッグアーチに屋根が付いていたら、広島のサッカーを巡る環境はどうなっていただろうか?

 あの時、市長が屋根を架ける決断をしていたならば、間違いなく広島は2002年日韓ワールドカップの開催地となっていただろう。その代わり、新しい時代に相応しいスタジアムが、街なかに作られることはなかったのではないか。

 広島がワールドカップの開催都市に選ばれていれば、もちろん誇らしいことではあるし、さまざまなレガシーを地域に遺したのかもしれない。けれどもわずか3試合のために、その後もアクセスの悪いスタジアムが使用され続けることが、果たして広島のサッカーファンにとって幸せなことだったのだろうか?

 来季オープンする新スタジアムへの期待と、間もなく役割を終える現在のスタジアムへの寂念。2つの思いが交錯する中、ビッグアーチでの最後のシーズンは、まもなく折り返しを迎える。(文中敬称略)

(宇都宮 徹壱 / Tetsuichi Utsunomiya)

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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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