「テセが涙ぐんで喜んだ」 28年前に始まった交流、聖地で生まれた歴代フロンターレ選手の成長物語
『BIG FOOT』で感じたフロンターレの理想的なサイクルと成長曲線
なぜ「聖地」と呼ばれる飲食店に、選手のサイン入り写真やユニフォームが飾られていないのか、ご理解いただけただろうか。
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最初に『BIG FOOT』に通っていたのは、富士通サッカー部の社員選手たちだった。その後はJリーガーに入れ替わり、その中から日本代表も出てくるようになった。それでも田邉にとっては、どんなに選手のステイタスが上がっても「ウチのお客さん」というスタンスに変わりはなかった。
「正直、フロンターレがこんなに大きくなって、何人も代表選手を輩出するなんて、以前はまったく想像できませんでしたよ。こんなことなら、サインをもらっておけばよかったかな(笑)。いやいや、今さらもらうのも変な話ですよね。僕にとって、竹内やベティたちは年の離れた弟、谷口や周平たちは息子みたいなものなんです。最近だと、自分の孫と変わらないくらいの選手も出てきました」
それが、3月4日の湘南ベルマーレ戦でJリーグデビューを果たした、松長根悠仁。2004年生まれの18歳は、実は『BIG FOOT』のすぐ近所の出身である。
「これはノボリ(登里享平)と(小林)悠から聞いたんだけど、ウチにフロンターレの選手が来ると小学生だった松長根くんは、そこの窓からじっと見ていたそうですよ(笑)。フロンターレの選手を身近に感じられる店として、ウチは当時の子供たちにも認識されていたみたいです」
そんな『BIG FOOT』の定休日は日曜日。フロンターレがJ1に定着してからは、土曜日の試合が多くなったため、等々力での試合はすっかりご無沙汰になってしまった(2017年の初タイトルの瞬間も、田邉は現地で観ていないそうだ)。
「そろそろ息子たちに店を任せて、土曜日の試合を観に行こうかなとは思っています。昔はたまに等々力に行くと、ハラハラして観ていられなかった。自分の子供の試合を観ているような感覚になるんですよ。分かります? でも、孫くらいの選手ばかりになったら、安心して観ていられるかもしれない(笑)」
田邉には最近、嬉しいことがあった。プレミアリーグで活躍中の三笘薫が、印象に残っている育成年代の指導者として、久野の名を挙げたのを人づてに知ったからだ。
かつて店の常連だった社員選手のうち、何人かは引退後も残り、フロントスタッフや指導者としてクラブに貢献している。結果として、数々のタイトル獲得があり、世界へと羽ばたいていく選手たちがいる。川崎フロンターレの理想的なサイクルと成長曲線。それは『BIG FOOT』という限られた空間からも、十分に感じることができた。サイン入りの写真やユニフォームは飾られてはいないけれど、ここ『BIG FOOT』はまさに、フロンターレの「聖地」の1つである。(文中敬称略)
(宇都宮 徹壱 / Tetsuichi Utsunomiya)