日本人監督の欧州進出へ、指導者ライセンス改革が必要 モラス雅輝「このままでは認められない」
ドイツ語圏から立て続けに誕生する叩き上げの名将
UEFAは「指導者と選手は全く異なる職業であり、過去のように元プロ選手を優遇してライセンスを与えるべき時代ではない」と宣言し、内容の改善を重ねてきた。その過程で現役時代の実績が有利に働く実技は廃止され、選手経歴のポイント化も徐々に減らしていく傾向にある。そしてこうした流れを牽引するドイツ語圏からは、立て続けに叩き上げの名将が誕生してきた。
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「現在のA級の内容は、2年前ならプロに相当しました。それほどライセンス講座の密度は日進月歩です。例えばオーストリア協会では、A級を取得したら指導可能な最上位のカテゴリーで監督経験を積まないとプロは受講できません。私が監督を務めたクラブが2部と3部の時にコーチだったオーストリア人の指導者も、それでは実績が足りないということで、1シーズン3部のチームの監督を務めてやっとA級を受講できました」
ドイツでもオーストリアでも、連盟が「国の未来を担うのは指導者」と明言しており、だからこそ厳しいハードルを課している。何より重視されているのは指導者としての見識や経験であり、なかなかプロライセンスを受講できない指導者が「誰もが平等に職業訓練を受ける権利がある」と連盟を相手に訴訟を起こすケースも出ている。また元スイス代表選手も「ライセンスが難し過ぎる」と苦言を呈したが、逆に叩き上げ派から「パワーポイントも使えない。分析もできない。スポーツ科学も勉強していないような元選手が、ライセンスを欲しがるほうがおかしい」と反撃を食ったそうだ。
もちろん現状で、UEFA全体に厳しい基準が浸透しているわけではなく、依然として国ごとで落差があるので、時間と金銭に余裕がある元選手たちが抜け道を探しやすいのも事実だ。
「ドイツ代表GKだったイェンス・レーマンは、自国では指導実績が満たなかったので、プレミアリーグでの実績が活きるウェールズで取得。マルティン・デミチェリス(元アルゼンチン代表)は、現役時代の実績でポイントを稼げるイタリアで取っています。実は僕もイタリアでプロライセンスに合格した指導者の論文を読んだことがありますが、全83ページ中58ページが何の説明もないスクリーンショットだけでした」
さらに身近にも、こんな例がある。
「僕がヴァッカー・インスブルックの監督時代には、コーチの1人に元アルメニア代表のイェルヴァンド・スキアシャンがいました。彼はヴァレリー・ロバノフスキー時代のディナモ・キーウでプレーし、ギリシャでは最優秀外国籍選手に選ばれた経歴を持っています。でもオーストリアでは監督経験がなくA級の基準にも満たないので、ウクライナでライセンスを取得してきました。現場での指導試験も論文もなく、最終試験もオンラインでの簡単な内容だったそうです」