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世界のサッカーで日本の“常識”は通用しない 海外挑戦する選手が磨くべき国際感覚

徹底した抜かりなさこそアルゼンチン人の美徳

 アルゼンチン代表はカタール・ワールドカップ(W杯)を制覇したが、彼らのメンタリティは異質である。勝利のためにはなりふり構わない。

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 リーガ・エスパニョーラ、デポルティボ・ラ・コルーニャが欧州を席巻していた2003-04シーズンのACミラン戦、敵地で1-4と敗れ、風前の灯火だった。しかし本拠地では前半を終わって3-0とリード。世紀の大逆転を起こしている。そのハーフタイム、リオネル・スカローニ(現・アルゼンチン代表監督)はメンバーではなかったが、アルゼンチン人らしくボールボーイに指示を出していたという。

「おまえら、タッチの外に出たボールはすぐに中へ戻すな。何をしてもいいから、できるだけ時間を稼げ!」

 おそらく、日本人は眉をひそめるかもしれない。「そんな卑怯な手は使わないよ」。そう考えるかもしれない。しかし徹底した抜かりなさこそ、アルゼンチン人にとっては美徳なのだ。

 お金に対する捉え方も様々だろう。

 例えば日本人選手はより良い条件で移籍を決定し、「金で動いた」と揶揄されるのを嫌う。しかし、欧州や南米の多くの選手は当然のように「より良い条件」を選ぶ。なぜなら、プロサッカー選手は結局のところ個人事業主のフリーランスであり、自分を高く買ってくれた相手が最高の雇い主ということになる。生きていくための正義がそこにあるのだ。

 かつてポルトガル代表ルイス・フィーゴがFCバルセロナから宿敵レアル・マドリードに移籍し、「金の亡者」と凄まじい批判を受けたことがあった。しかし、本人は少しも悪びれることはなかった。謝罪など一切せず、あらゆる敵意を受け止めた。

<悪いのは、自分の契約をつなぎ留められなかったクラブ>

 そのモラルが根底にあるからだ。

 酷薄にも思えるが、その感覚こそがプロの世界を緊張感ある、正当なものにしている。すなわちクラブも選手に対し、契約で白黒をはっきりしなければならない。必要な選手に対しては、シーズン半ばまでに次のシーズン終了以降の契約更新を交渉する必要があるのだ。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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