勝利至上主義は「大人の問題」 高藤直寿が指摘する問題の本質と未来への影響
勝利至上主義排除のため全国小学生学年別柔道大会を廃止も…
2024年パリ五輪で連覇を目指す髙藤は、子どもたちを含む選手たちが自発的に「勝ちたいと思い、勝利を追い求めるのはとてもいいことだと思います」と話す。勝ちたいと思わず、また勝つための努力をせずに勝てるほど、勝負の世界は甘くない。髙藤自身、2016年リオ五輪で銅メダルに終わった悔しさが金メダルへの想いをさらに強くし、学びや成長に繋がる材料にもなった。
国際大会であれ、レクリエーションであれ、勝負に「勝ちたい」という気持ちは自然に沸いてくるもの。だからこそ、本当に大切なのは「子どもたちが勝ちたいと思い、進んで練習するように導くことができる指導者の育成」だと考えている。
「『勝ちたい』と『勝たせたい』を差別化して、しっかり指導者を育成できるような機関が必要だと思います。そのためにも、日本の柔道の仕組みを決める立場の人たちは、各地の道場に足を運んで現状をしっかり見ないといけないと思いますし、僕たち現役選手の声にも耳を傾けてほしいですね。僕らも協力していきたいと思っていますから」
くだんの全国小学生学年別柔道大会の廃止については「あれは見せかけです」と手厳しい。だが、ただ単に言いたい放題というわけではない。そう考える理由も、しっかりとある。
「個人戦の全国大会(全国小学生学年別柔道大会)はなくなりましたが、団体戦(全国少年柔道大会)は残っている。でも、正直なところ、団体戦の方が勝利至上主義が色濃いんです。だから、あまり変わっていないと思う柔道関係者は多いと思います。なくすのであれば、両方ともなくすべきでしょうね。
ただ、小学生の全国大会をなくしたことで、将来的に日本の柔道が強くなるかといったら、また違う。柔道の競技人口は増えたとしても、今度はその世代の子どもたちがトップ層になった時、世界で勝てなくなるのではないかと思います。勝てなくなると、今度は強化費や助成金として柔道界がいただく支援が減り、次の世代を支える子どもたちのために使えるお金が減ってしまう。そういうめちゃくちゃ悪いサイクルになると思うんですよね。
先の状況まで考えた上での判断なのか。全国小学生学年別柔道大会がなくなったことが一人歩きして、世間では『いいことだ』という声が色々と上がりましたけど、想定される全てをクリアにしていかないと。これは本当に難しい問題なので、できることがあれば僕も協力していきたいと思います。大人たちが解決すべき問題なので」
髙藤も大人の一人として問題解決のサポートに力は惜しまない。この先の未来もずっと、大好きな柔道が子どもたちに愛され、国民から応援される日本のお家芸であり続けるためにも、フラットな視点を持って意見できる金メダリストでいたい。
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)