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多様性は「好き勝手にしていい」ではない スポーツ選手が持つべき相手へのリスペクト

スタンドからの人種差別的な言動は言語道断、対立を煽るサンバにも苦言

 生まれたズレはさらに広がった。

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 次のアスレティック・ビルバオ戦でも、ヴィニシウスは強烈なマークに遭い、挑発的な態度を取った。「お互いがやり合っている」とも言える。しかしわざわざ股抜きを仕掛け、大袈裟に倒れ込み、カードを求める行為は、敵地では好ましくない。

「サンバを踊るのは喜んでいるだけで、股抜きも技術を披露しているだけ。ピッチでは自由だろ?」

 そんな意見もあるだろう。しかし、相手を愚弄する振る舞いはヨーロッパでは禁じ手である。ブラジル人にとっては正義で、ネイマールも悪びれることはなかったが、敵を作るだけだ。

 さらにスペイン国王杯のアトレティコ・マドリード戦、会場はヴィニシウスを手ぐすね引いて待っていた。バスの到着時から「ヴィニシウス、お前は猿だ」という大合唱。悪辣な人種差別的言動はあってはならず、その点で彼は絶対的な被害者なのだが……。

「もしゴール後にサンバを踊ったら、必ず問題になる」

 アトレティコの主将であるコケも警告したように、ヴィニシウスも騒ぎを扇動する形になっていた。

 結局、3点目を決めたヴィニシウスはアトレティコサポーターに向かってサンバを踊っている。当然のように、大ブーイングが巻き起こった。

「ウー、ウ―」

 猿の鳴きまねで、最大限の侮辱を与えた。

 ヴィニシウスは自ら悪役を買って出たようなものだろう。アウェーで全員を敵に回した。対立構造ができてしまった。

 そして敵地マジョルカ戦でも、ヴィニシウスは態度を変えていない。スタンドから人種差別的ブーイングを浴び続けると、「マリーシア」を連発した。

「ヴィニシウスはイエローカードを何度も要求し、サンバを踊って、舌を突き出し、スタンドを煽っていた。私はたとえ自分のチームの選手であっても、そうした振る舞いを好まない。相手へのリスペクトを欠いているからね。今はそういう時代かもしれないが、サッカーには倫理観があるんだ」

 マジョルカのメキシコ人ハビエル・アギーレ監督は、そう苦言を呈していた。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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