「僕らには責務がある」― 日本サッカーの礎築いた故・岡野俊一郎氏の言葉
マスコミ関係者も岡野さんの影響を受けて育った
岡野さんは話していた。
「クラマーはコーチ学を持って来たんです。それまで日本にはコーチ術しかなくて、それは東大式、早大式……など、みんな違った」
そしてクラマーの薫陶を受けた岡野さんは、テレビ番組を初めとするメディアにも積極的に出て、正しい知識に基づく啓蒙活動を続けた。僕らの同世代には、サッカーに侵されたマスコミ関係者が少なくないが、例外なく岡野さんの名調子を聞いて育ったはずだ。
「僕らには用語を正確に伝えていく責務があるんですよ。よくメディアでサッカーの“コート”という表現を目にしますが、サッカーにコートはありません。コートというのは、主に室内競技で正確に大きさが定められたもので、サッカーの場合は、ピッチとかフィールドという表現を使います」
僕も「サッカーのコート」と書いたことはなかったが、「ハーフコートマッチ」などという表現は使っていたので、未熟なライターとして吐露した。
「いえいえ、こちらこそ失礼しました」
とても穏やかな口調だった。
【了】
加部究●文 text by Kiwamu Kabe