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6人の命が奪われた少年野球リーグの葛藤 米国社会の「子どものスポーツと銃撃事件」

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「子どものスポーツと銃撃事件」について。

今回のテーマは「子どものスポーツと銃撃事件」について(画像はイメージです)
今回のテーマは「子どものスポーツと銃撃事件」について(画像はイメージです)

連載「Sports From USA」―今回は「子どものスポーツと銃撃事件」

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「子どものスポーツと銃撃事件」について。

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 米テキサス州にあるユバルディという町の名前は深い悲しみと怒りとともに、多くの人の胸に刻まれている。5月24日、ユバルディのロブ小学校で、銃乱射事件が発生し、児童19人、教員2人の命が奪われた。亡くなった19人の児童のうち6人が地元のリトルリーグやソフトボールのリーグに所属していた。

 あのような悲惨な銃乱射事件が起こる前のこと。このユバルディのリーグは6月末にオールスターゲームを開催することになっていた。事件後、リーグの運営者たちは、予定通りオールスターゲームを開催するべきか、取りやめるべきかを悩み抜いた。どちらが、命を奪われた子どもと心に深い傷を背負うユバルディの子どもや遺族のためになるのだろうか、と。

 6月2日のテキサス州サンアントニオのフォックステレビ系列局は、ユバルディのリトルリーグ会長が、亡くなった子どもの遺族にどのようにしたいかたずねていると伝えた。また、6月20日付のニューヨークタイムズ紙の記事では、ユバルディのリトルリーグがオールスターゲームの開催について地元のカウンセラーたちに相談したことを伝えていた。最終的に、遺族、専門家の意見を聞いたうえで、亡くなった子ども、遺された人々、みんなのためにオールスターゲームを開催するという結論に達した。

 しかし、事件から1か月、リトルリーグ、ソフトボールリーグに関わる人たちの悲しみは癒えることなく、葛藤は続く。ニューヨークタイムズ紙の記事は、リーグの会長が銃撃で命を奪われた6人の子どもたちのポートレートを涙しながらベンチに飾る様子を描写し、オールスターに選ばれた子どもの親が罪悪感を抱いていることも取り上げた。この母親は「自分勝手なことをしているような気がする。この町はたくさんの痛みを抱えているのに、自分だけ幸せな気分になろうとするのは申し訳ない」と率直な胸のうちを明かした。

 一方では、子どもたちは野球をプレーすることを必要としていたという声も紹介されていた。スポーツは、深い悲しみを背負った人たちの気持ちを少しでも紛らわせることはできるかもしれない。子どもたちがプレーする姿によって元気づけられた人もいるかもしれない。けれども、スポーツだけでは、アメリカの抱える銃の問題を解決できない。

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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