選手を傷つける誹謗中傷 「こんな競技、何が面白い」を喜べた羽根田卓也の発想の転換
スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、競技の第一線を知るからこその独自の視点でスポーツにまつわるさまざまなテーマで語る連載「THE ANSWER スペシャリスト論」。カヌーのリオ五輪銅メダリスト・羽根田卓也(ミキハウス)は18歳で単身、カヌーの強豪スロバキアに渡り、日本で自らスポンサー営業も行うなど、競技の第一人者として道を切り開いてきた経験や価値観を次世代に伝える。
「THE ANSWER スペシャリスト論」カヌー・羽根田卓也
スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、競技の第一線を知るからこその独自の視点でスポーツにまつわるさまざまなテーマで語る連載「THE ANSWER スペシャリスト論」。カヌーのリオ五輪銅メダリスト・羽根田卓也(ミキハウス)は18歳で単身、カヌーの強豪スロバキアに渡り、日本で自らスポンサー営業も行うなど、競技の第一人者として道を切り開いてきた経験や価値観を次世代に伝える。
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今回のテーマは「アスリートの容姿報道と誹謗中傷」後編。スポーツ界では近年、アスリートに対する誹謗中傷も課題となっている。リオ五輪メダル獲得で露出が増え、ネット上の心無いコメントに胸を痛めたこともあったが、ある発想の転換でアンチの声に寛容になった体験を明かした。また、容姿など競技とは関係ない話題が報じられる日本のスポーツ報道の裏の課題を指摘した。(聞き手=THE ANSWER編集部・神原 英彰)
◇ ◇ ◇
――前編でリオ五輪メダル獲得を機に露出が増えるにつれ、好ましくない声に触れるようになったと聞きました。実際にはどんなものだったのでしょう?
「さまざまですね。『調子乗ってる』なんていうのは、分かりやすいかもしれないです」
――羽根田選手はツイッターの反応や記事のコメント欄は見る方ですか?
「気になりますね。僕は見る方です」
――選手によってはシャットアウトする人もいます。羽根田選手が見る理由はなぜでしょう?
「僕は見て、受け止めて、対処していきたいので。『2ちゃんねる』まではいかないですが、Yahoo!ニュースなどのリアクションくらいは見ますね。そういうネガティブな反応は向き合っていかないと、シャットアウトしていたとしても、どこかで絶対に耳に入ってきたり目に入ったりするもの。例えば、それが五輪直前のタイミングでグサッと刺さり、気持ちが落ちてしまう方が怖い。日頃から向き合い、免疫をつけていった方がいいと思うタイプです」
――アスリートの誹謗中傷は近年のスポーツ界の課題の一つ。そういう声に触れた時はどう対処しますか?
「最初はすっごく傷つきましたよ。こんな風に思われていて、こんなことを公共の場で書く人がいるんだと。その悪口が書かれたコメント一つで、記事を見た人の印象も作られるじゃないですか。でも、ある時に『調子乗りすぎ、何が面白いんだこんな競技。川を下って、激流だか知らないけど、ポールを回ってタイムを競って……』と書かれていました。それを見た時に一瞬、『ああ、腹立つ。一生懸命やってるのに馬鹿にしやがって』と思ったんです。
ただ、よく考えて『いや、待てよ』と気付きました。『川を下って、ポールを回ってタイムを競って……』って、ああ、ルール知ってるじゃん! 競技が浸透してる! こんなアンチまで知ってくれてる! と思って、嬉しくなったんです(笑)。発想の転換ですね。条件反射でいらついたり、傷ついたりするのではなく、発想の転換でいくらでもポジティブに捉えられる。そういうコメント一つ一つからでも気づきを得られると、僕は思います」
――なるほど。もちろん、度を越えた誹謗中傷は許容すべきではありませんが、どうしても目に入るアンチ意見にどんな受け止めをするか、羽根田選手の発想は競技をする上でもメンタルコントロールにも生きてきそうですね。