大会に出たい理由は「皆と滑りたいから」 日本の部活文化に響くスケボー界2人の言葉
西矢が大会に出る理由は「勝つためじゃなく、みんなと一緒に滑りたいから」
とりわけ、柔道、バレーボールなど日本で長く親しまれる伝統的な部活競技の関係者で危機感を覚えた者が少なくない。
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根底にあるのは、昔ながらの勝利至上主義。それが行き過ぎた結果、近年は競技人口の低迷につながっていると見る向きもある。だからこそ、東京五輪において新しいスタイルのスポーツで、10代の少女たちが作り出した光景は、驚きに映った。
では、スケートボートで戦う2人は「勝つこと」の価値をどう捉えているのか。
どちらかといえば、勝つことよりも「自分のやりたいトリックを決めること」が大切と西矢は言う。その理由を聞くと、印象的な言葉が返ってきた。
「うーん、よく分からないけど……勝ちに大会を出ているんじゃなく、みんなと一緒に滑りたいから大会に出ているので」
大切なのは同じスポーツを愛する仲間と、練習してきたことを披露し合い、認め合うこと。あくまで、その延長線に勝敗がある。だから、だろう。西矢はスケートボードをやって一番良かったことを聞かれたら「いろんな友達ができたこと」と迷いなく答える。
もちろん、まだ中学3年生。白井が「自分くらいの年(20歳)になったら、これで賞金をもらえるなとか考えちゃう」と笑うように、邪念に惑わされず、純粋に競技を楽しめる年代ということも大きいが、非凡な才能と努力で金メダリストになった選手の言葉としては新しい価値観に思える。
白井は「戦略もありますね」と西矢の言葉に補足した。「予選なら自分がやりたい技じゃなくても、点数を計算してやる。決勝は自分がやりたい技なら、勝てるポイントがつくと計算できる、だから、メイクできたら勝ち、できなかったら負け」。自分がやりたい技こそが勝利への近道になるから、誰もがこだわる。
「もちろん、勝ったら嬉しいですよ。それに勝ることないって思うくらい。優勝ってことは、みんなに認められたわけでもあるので」
逆に、スケートボード界で生きる2人に部活の世界はどう見えているのか。
白井に聞いて、最初に出てきたのは意外な言葉だった。「羨ましい気持ちはありますね」。続けて「大変そうだなって気持ちもあります」とも言った。
憧れる理由は、部活ならではの集団性だ。
「部活って同じ学校のみんなでやって、凄く楽しそうだなって。6、7時まで練習して、家に帰って。でも、俺たちは先に帰って、そこから一人で練習して10時までやって。生き方も生活も全然違うんです。その時はみんなスケボーなんて知らない。サッカー、野球が正義ってみんな思っていたし、誰からも認められてなかったので」
もともと、野球が好きで小さい頃に少年野球を体験したが、「センスがなさすぎて」1日で辞めたという白井。その白井に「部活に憧れたことはない?」と振られた西矢も「あります」と素直に想いを口にした。もし、部活に入るならバスケットボール。「バリうまいっす」と自称するほどの腕前だという。
当たり前に練習環境・設備があり、認知され、仲間がそばにいる。それも、部活の一つの良さ。
隣の芝生は青く見えるもの。日本で競技の歴史は浅いがゆえに、白井は「スケートボードをやっている人、みんな部活に憧れたことがあると思いますよ」と明かす。