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有償でスポーツ指導をすることは世界の常識か 日本が目指す仕組み、欧米それぞれの実情

英国、ドイツ、ノルウェーなど欧州の例は?

 では、米国以外ではどうなのだろうか。英国を中心にスポーツとボランティアを研究する複数の国の研究者によるVolunteers in Sport: International perspectives(Geoff Nichols編, Routledge,2014)では、冒頭にこのように書かれている。

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「英国の約15万のスポーツクラブは、コーチ、会計、会員管理事務などの正式な役割を担うボランティアと、インフォーマルに支援する無数のボランティアによって支えられている。このようなボランティアによるクラブ運営は、ドイツ、カナダ、フィンランド、オーストラリアなど、他の国々にも共通する」

 この本では、無償のボランティアは有償の従業員にかわっていくかというテーマにも触れているが、取り上げられた国では、コーチも含めてボランティアによる運営が今でも行われているということがわかる。

 これとは別にドイツのケルン体育大学による2017~18年の実態調査では、国内に9万近いクラブがあり、総計で2700万人の会員がいること、また、60万6000人のボランティアのコーチ・トレーナーがいると書かれている。無償のボランティアでコーチをする人のうち、資格を持ったコーチはどのくらいの割合を占めているのかはわからなかったが、全コーチやトレーナーのうち60%が資格を持っているとしている。また、冬季五輪でメダル獲得数最多のノルウェーはどうだろうか。インランドノルウェー応用科学大学が2017年度のコーチを対象にした調査では、コーチのうち75%がボランティアであり、25%が雇用されているコーチであるというものだった。

 前述したように米国の子どものスポーツの場では、グループレッスンや個別レッスンを提供する業者にとっては、有償で指導を提供することが当たり前である。しかし、地域スポーツでは、コーチ講習を受けて資格を取得しボランティアでコーチを引き受ける人も決して珍しい存在ではない。デトロイト市内のユーススポーツ団体、デトロイトPALでは、毎年1900人のボランティアコーチに3回の講習を提供し、犯罪歴確認も行った後で、実際に指導を始めるシステムである。筆者もボランティアコーチの講習を受けた一人で、ここでは、ボランティアでコーチすることは当たり前のことと言える。

 今、日本では部活動の地域移行が進められている。しかし、筆者は「地域」という言葉が、スポーツサービスの提供者を指すのかどうかが明確に伝わってこないように感じており、「スポーツ指導を学んだ有資格者が有償で指導する」ことが誰にとっての常識だろうかと混乱しているのだと思う。

(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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