ドラッグストアのレジ打ちから目指すパリ五輪 重量挙げ次世代ヒロイン高橋いぶきの物語
普段ドラッグストアで勤務する彼女の姿を見たことがある人であれば、その小柄な身体からは想像できないパワーで、体重の2倍以上あるバーベルを上げる姿に、思わず声を上げるはずだ。そのことを告げると「ウエイトに向いている体型なだけなんです。体が小さくて手足が短いだけで」と笑う。ウエイトリフティング(重量挙げ)女子48キロ級の日本チャンピオン・高橋いぶき。国民的ヒロインだった同級東京五輪代表の三宅宏実が引退し、ポスト三宅の最右翼と目される25歳は今、新たな土地、新たな環境で、もがきながら2024年パリ五輪を目指している。(取材・文=梅本 タツヤ)
重量挙げで“ポスト三宅宏実”の最右翼と目される25歳高橋いぶき
普段ドラッグストアで勤務する彼女の姿を見たことがある人であれば、その小柄な身体からは想像できないパワーで、体重の2倍以上あるバーベルを上げる姿に、思わず声を上げるはずだ。そのことを告げると「ウエイトに向いている体型なだけなんです。体が小さくて手足が短いだけで」と笑う。ウエイトリフティング(重量挙げ)女子48キロ級の日本チャンピオン・高橋いぶき。国民的ヒロインだった同級東京五輪代表の三宅宏実が引退し、ポスト三宅の最右翼と目される25歳は今、新たな土地、新たな環境で、もがきながら2024年パリ五輪を目指している。(取材・文=梅本 タツヤ)
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もともと競技歴が浅い選手が多い重量挙げではあるが、中でも高橋は遅咲きだ。陸上部で短距離を専門としていた高校時代、周りの勧めもあり、高校2年時に正式に転向。3年時には全国高校女子選手権で5位入賞を果たすなど、競技にのめりこんでいったように見える。しかし、本人は「その頃は体育の教師になるのが一番。そのために大学も選びました」と言うように、五輪はもちろん、競技者として第一線で活躍する考えは微塵もなかった。
「ウエイトが強いとか弱いとか考えないで選んだ」という大学が、五輪3大会連続出場の八木かなえらを輩出した名門・金沢学院大だったとしても、その考えは変わらなかった。同期2人は高校チャンピオン。「女子の軽量級で実績もない私は、部内の誰よりも弱かった」。練習初日で強豪校の雰囲気に圧倒されたものの、どこかで「自分は大学にウエイトをやりに来たわけじゃない」という感覚でいた。ただし、言葉とは裏腹に負けず嫌いが顔を出した。全体練習以外にも個人練習を積み、目の前の目標重量を一つ一つクリアしながら研鑽は積んでいった。
結果的にその才能と努力が開花の兆しを見せ、転機となったのが大学3年で出場した全日本ジュニア選手権優勝。後に世界ジュニアに出場し、世界の舞台を間近に見たことで、初めて競技者としての人生を意識した。その時、ふとよぎった「大学4年間のうちに世界大会に選ばれることになれば競技を続けよう」という“リトルいぶき”の声に応えるかのように、2017年ユニバシアード、2018年アジア大会の日本代表に選ばれるなど、着実に日本を代表する選手へとステップアップしていった。
ついに花開いたキャリアで初めて挫折も経験した。金沢学院大大学院時代、環境が整ったキャンパスで競技漬けの毎日を送ることになったが、結果への焦りや怪我の影響もあり、不振に喘いだ。周りの支えもあって徐々に復調したものの、一つの目標にしていた東京五輪は選考漏れ。昨年4月、次のパリ五輪に向け、新たな拠点に選んだのが、大学時代を過ごした石川や故郷・岐阜、環境の整う東京ではなく、初めて生活する地、奈良だった。
「ウエイトだけできる環境もあったけど、新しい環境で新しい人と出会うことで、競技の幅が広がると思って選びました」