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アスリートも勉強が必要である理由 スロバキア最難関大学を卒業した羽根田卓也の考え

「アスリートに勉強は必要か」の問いで考えるスポーツ界の課題

――難しい試験をくぐり抜け、最終的に大学院に進み、さらに学びを深めました。

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「大学で絶対にやめてやると思いましたけど(笑)。大学も本来の3年間で卒業できませんでした。向こうは1、2年の留年は当たり前なんです。日本は留年が恥ずかしいというイメージがあるかもしれませんが、向こうは逆に勧めてきます。『お前は3年間で終わり切れないだろうから絶対に延ばせ。延ばした方がお前のタメになる』と、それくらい難しかった。でも、僕のコーチや同じ卒業生たちから、そこまでできたなら大学院というのは研究メインだし、そんな授業数も多いわけじゃないから、お前のタイトルにもなるし、行った方がいいと背中を押してくれて」

――日本の大学院と同じように論文を書いていたのですか?

「そうです。主にカヌーのパフォーマンスについて、自分が取り組んでいる体力テストのデータをパフォーマンスと結びつけたりしました」

――今回のテーマに関わる「競技と学業」という関係について聞きます。以前、取材したサッカーの川島永嗣選手は高校時代に「授業中は寝ない」と決め、試験前はテスト勉強なしで高得点を取っていたそう。寝ない理由は「自分で決めたルールを守れるかが、ピッチ内での自分の規律に影響してくる」から。また、広島の進学校、修道中・高出身の陸上・山縣亮太選手は「自分の能力を伸ばす」という共通項をもって、成績向上のためのPDCAのサイクルが競技にも生きると言っていました。羽根田選手は「学業は競技に必要なのか」という問いにどんな考えですか?

「学問としての知識が、必ずしも競技パフォーマンスにそのまま影響するわけではないと思います。ただ学業を通して、考える力や課題を解決する能力を身に付けることができます。自分が行うトレーニングの狙いや意味、監督・コーチの意図などもより理解できるようになるのではないでしょうか。勉強をしたから足が速くなるということではなく、学業を通して人間としてより成長することが、アスリートとしての可能性を広げられる。勉強をしないで生じてくる教育的なハレーションのような問題もきっとたくさんある。それが原因で結果的にパフォーマンスを下げてしまう恐れもあるから、リスクヘッジの意味も込めて学業は必要だと思います」

――学びが競技に影響することはどんなことでしょうか?

「勉強に限らず、社会経験を積み、いろんな人と触れ合い、視野を広げることで現役生活の間に妨げになるものがどんどん減っていくと思います。スポーツという本当に狭い世界の“タコつぼ”で生きていくと、何か問題が起きた時にうまく対処できなかったり、大きな大会にうまく臨めなかったり。それこそ何かハラスメントに遭ってしまったり、鬱になってしまったり。そういうことが起こりやすいのではないでしょうか。勉強する、しないではなく、その競技だけをしていることで、結果的にパフォーマンスに影響を及ぼすかもしれません」

――アスリートは競技に打ち込み、競技力を高めるほど社会性が乏しくなりやすいことは日本のスポーツ界にとっても大きな課題です。

「僕は部活動やチームという枠の中でずっとやってきませんでした。そういう環境が欲しくても得られない競技だったので。その分、外の世界と接する機会が多かったかもしれません。日本でスポンサー営業に自分で行った時、初めて社会に接して、凄く強烈なダメ出しを言われることもありました。でも、それが社会勉強だし、競技外のメンタルにおいて一種の免疫力にもなりました。

 スロバキアで生活し、外国人と接して大学に通い、そういうことで競技力以外の人間力のようなものが鍛えられた。それで競技力に還元されることは必ずある。単に学力をパフォーマンスに結びつける必要はないし、学力より人間力が必要。学校に行かなくてもいろんな経験を積みながら競技をやっている人もいると思うし、競技だけやっていればいいというのも僕は違うと思います」

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羽根田 卓也

リオ五輪カヌー銅メダリスト THE ANSWER スペシャリスト

1987年7月17日生まれ。愛知・豊田市出身。ミキハウス所属。元カヌー選手だった父の影響で9歳から競技を始める。杜若高(愛知)3年で日本選手権優勝。卒業後にカヌーの強豪スロバキアに単身渡り、スロバキア国立コメニウス大卒業、コメニウス大学院修了。21歳で出場した2008年北京五輪は予選14位、2012年ロンドン五輪は7位入賞、2016年リオ五輪で日本人初の銅メダル獲得。以降、「ハネタク」の愛称で広く知られる存在に。東京五輪は10位。2022年1月、パリ五輪を目指し、現役続行することを表明した。175センチ、70キロ。

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