50歳になっても卓球を続けたかった水谷隼 主役を降りた9月9日、集合写真で立った場所
2021年も多くのスポーツが行われ、「THE ANSWER」では今年13競技を取材した一人の記者が1年間を振り返る連載「Catch The Moment」をスタートさせた。現場で見たこと、感じたこと、当時は記事にならなかった裏話まで、12月1日から毎日コラム形式でお届け。第23回は、卓球・水谷隼(木下マイスター東京)が登場する。9月のTリーグ開幕戦(東京・大田区総合体育館)で見せた些細な気遣いには、次世代を想う姿勢を感じさせた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
一人の記者が届ける「THE ANSWER」の新連載、第23回は卓球・水谷隼
2021年も多くのスポーツが行われ、「THE ANSWER」では今年13競技を取材した一人の記者が1年間を振り返る連載「Catch The Moment」をスタートさせた。現場で見たこと、感じたこと、当時は記事にならなかった裏話まで、12月1日から毎日コラム形式でお届け。第23回は、卓球・水谷隼(木下マイスター東京)が登場する。9月のTリーグ開幕戦(東京・大田区総合体育館)で見せた些細な気遣いには、次世代を想う姿勢を感じさせた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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主役は自分ではない。そんな水谷の気遣いが見て取れた。9月9日の開幕戦。木下マイスター東京は、大島祐哉が2勝の活躍で白星発進を決めた。試合後、チーム全員で記念撮影。先輩の横に回って一番端に立とうとした大島を、出場のなかった水谷が“いやいや”と遮った。ヒーローを中央に寄せ、引き立て役に回っていた。
東京五輪での引退を表明していた32歳。数年前から抱えていた目の不調により、代表活動など第一線を退く意向だったが、チームと契約してTリーグに選手登録した。限定的な出場が見込まれていた中、この日はベンチに入っただけ。それでも、監督不在で開幕を迎えたチームを最前列から鼓舞した。
敵も味方も知り尽くす。タイムごとに積極的に助言を送り、時折笑顔を見せながら身振り手振りで指示を出した。「1球たりとも同じ球を繰り返さないように」。世界と戦った現役No.1の経験値から生まれる、的確かつ絶妙なタイミングの声かけ。大島が「自分が考えないようなアドバイスもくれる」と言えば、全日本王者の及川瑞基も「レジェンドがベンチにいるのが心強い」と感謝。背中には安心感があった。
水谷の些細な行動にも、次世代への想いが垣間見えた。試合前の練習中、場内DJが最前列の少年ファンにインタビューした時だ。「水谷選手を見に来た」という小学2年のその子に歩み寄り、ニコっと微笑みながらポケットから出したボールをプレゼント。一生の思い出になっただろう。DJが「初めてTリーグを見に来た人は?」と問いかけると、889人の観衆のうち半分ほどが挙手。卓球ノートだろうか、試合中にメモを取る子どもたちの姿もあった。