JリーグGK年間表彰に名古屋の名手選出 楢﨑正剛氏が注目した「ホンモノの実力」とは
GKはチームの浮沈に左右される反面、窮地を救う決め手にも
反対に、自身のパフォーマンスとチームの結果が比例しない場合もある。「GKは自分が活躍しても結果が伴わないこともあるポジションです」という楢﨑氏の言葉が重く響く。
チームは降格という憂き目に遭ったが、ベガルタ仙台のヤクブ・スウォビィクや横浜FCのスベンド・ブローダーセンのパフォーマンスは苦しいチーム事情にあってもひと際目立っていた。
「個人能力に疑いの余地がない選手たちです。ただGKだけでゴールを守れるか、失点を減らせるかというと、長いシーズンでは難しい部分もあります。それでも仙台と横浜FCが最後まで粘って残留争いを戦えた背景には、間違いなく優れたGKの存在がありました」
チームの浮沈に左右されてしまう側面もあるが、一方で窮地を救う決め手にもなれる。それがGKというポジションの難しさであり、魅力だろう。
前出の外国籍2選手と同じように、日本人GKにも苦難のシーズンとなった実力者がいた。ガンバ大阪の東口順昭や清水エスパルスの権田修一だ。
「東口選手は今季も数多くのファインセーブを披露しましたが、チームとしてピンチの数が多かったという印象は否めません。最終節でようやく残留を決めた清水も苦しいシーズンでした。日本代表として試合に出場している権田選手の力でなんとか踏ん張っていた部分もあります。2チームと両選手にはこの苦労を糧に来季以降の活躍に期待したいです」
他にも月間ベストセーブの選考にあたって数多くの試合をチェックする楢﨑氏の目に留まる選手がいた。
「昇格したシーズンで8位に食い込んだアビスパ福岡では村上昌謙選手がアベレージの高いプレーを続けていたと思います。それから北海道コンサドーレ札幌の菅野孝憲選手も経験値を生かしてピンチを救っていました。若手に目を向けると、湘南ベルマーレの谷晃生選手は東京五輪を経て注目を浴びる存在になりました。これから日本代表で出場機会を得るためには、ここからもうひと伸びしてほしいタイミング。さらに高いステージを目指してほしいプレーヤーです」
サッカーのスタイルやシステムには時代の潮流が付きもの。それに呼応するようにGKも進化し、仕事は多岐に渡る。だからこそ、楢﨑氏はあえて強調した。
「育成の指導現場にも共通することですが、現代のGKに求められる仕事はとても多い。なんでもやらないといけないので、今のプレーヤーは大変です。でも揺るぎないことがひとつあるとすれば、ゴールを守るという仕事。それをコンスタントにハイレベルにできる選手が優れたGKですし、大切なポイントだと思います」
インタビュー序盤に名前が挙がった選手の軌跡を振り返ると分かりやすい。ランゲラックは来日から4シーズン、チョン・ソンリョンは6シーズンをJリーグで過ごし、どのシーズンも高いパフォーマンスでそれぞれの所属チームを支えている。
GKを語る上で「コンスタントにハイレベル」は来季以降のJリーグでもキーワードになっていくに違いない。
(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)