なぜアスリートはこの社会に必要なのか 羽根田卓也が信じる「全人類で絶対無二」の価値
なぜアスリートは社会に必要か、本質的な問いに返ってきた答え
東京五輪は開催を巡る議論の延長線で、スポーツやアスリートの価値が問われる機会にもなった。34歳とは思えない思考の深さに触れ、シンプルで本質的な問いをした。
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なぜ、アスリートは社会に必要か。
「そうですね」と逡巡したのは、ほんの一瞬。口を開くと、とめどなく言葉があふれた。
「やっぱり、スポーツ選手という存在は、皆さんにとって絶対的にポジティブであって欲しいんですよ、僕は。スポーツが好きな人、スポーツを見る人は何を求めて見るかって、そういう部分に期待して見ませんか? ゲーム自体が面白いのはもちろんですが、それ以上に残り1分でも諦めないで、残り5秒でゴールを入れる。でも、凄いのはゴールを入れたことではなく、諦めないでゴールを入れたこと。そういう部分にみんなが感動する。
だから、スポーツ選手は全人類にとって絶対無二のポジティブな種族、人間であって欲しい。そういう人間でなければいけないと思って、僕は普段の練習も取り組んでいるつもりです。諦めたり腐ったりする姿もスポーツ選手の一面であり、何かを感じる人もいますが、人に前向きな気持ちやエネルギーを感じてもらえるのがスポーツだと思う。そんなポジティブエネルギー満点のスポーツ選手がたくさんいると嬉しいと、僕は思います」
では、羽根田自身はこれからどんな道を歩むのか。
今後については「競技はまだ本当に何も……。パリは3年後ですが、目指す、目指さないも今のところ全然、考えていません。時間を作って、自分の中で時間を作って考えたいです」と話すにとどめた。
ただ、自ら言葉をつないで「どちらにせよ、大きな志というか、それが自分の……」とまで話したところで言い直し、競技への想いを口にした。これに続く言葉がなんとも羽根田らしく、印象的だった。
最後に、それをありのままに記しておく。
「子供の頃からカヌーに没頭してきて。僕にとって、カヌーって青春なんですよね。何かのためにやっているとか、成り上がるためにやっているとか。お金も大切なんですが、稼ぐためにやっているとか。やっぱり、そうではなかったので。子供の頃も、今もそう。青春であり、自分の志。
競技をやれば、それも続きますが、もし競技を辞めたとしても志を持って、何かを成し遂げたいですね。成し遂げたいと思うことを見つけたい。そういう姿を皆さんに見てもらった時、きっと何か伝わるものがあると思うので。そんな生き方を生涯かけて、探し続けたいと思っています」
人生を懸けて挑んだ夢舞台。メダルには届かなかった。しかし、それまでの過程に、メダリストもそうじゃない選手も優劣はつけられない。誰よりもアスリートの価値を信じ、青春を生きる羽根田卓也。気高い誇りとともに、東京五輪を去った。
■羽根田卓也 / Haneda Takuya
1987年7月17日生まれ。愛知・豊田市出身。ミキハウス所属。元カヌー選手だった父の影響で9歳から競技を始める。杜若高(愛知)3年で日本選手権優勝。卒業後にカヌーの強豪スロバキアに単身渡り、スロバキア国立コメニウス大卒業、コメニウス大学院修了。21歳で出場した2008年北京五輪は予選14位、2012年ロンドン五輪は7位入賞、2016年リオ五輪で日本人初の銅メダル獲得。以降、「ハネタク」の愛称で広く知られる存在に。東京五輪は10位。175センチ、70キロ。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)